その受け答えは、優等生的というよりは健康的。身体能力の高さでも知られる彼女だが、体を鍛える中で、心を整える方法も体得してきたのかもしれない。役者は、自分と真逆にあるキャラクターのほうが演じやすいともいうが、その整った心があってこそ、小春の狂気を鮮やかに演じられたということだろう。

「ディズニーの『シンデレラ』は大好きな物語ですが、大人になって、あらためてアニメを観ると、シンデレラのお姉さんがガラスの靴に足を合わせるために足を切ってしまうエピソードなんかが妙に心に引っかかってきて……。幸せを手に入れるために大きな犠牲を払う残酷なエピソードもあって、単純じゃないからこそ、世界中の人がこの物語に惹かれ続けているのかもと思いました」

 とても印象的なシーンがある。小春が大悟のプロポーズを受け入れ、海岸で、親子3人でダンスを踊る場面。幸せなはずのシーンなのに、空の色があまりにも不気味で、不穏で。これから何かよからぬことが起こる──そんな胸騒ぎがした。

「あれは、ワンカットで撮ったんですが、夕方の、昼と夜の境目の限られた時間で、ノーミスで本番一発OKだったんです!“限られた時間”や“ワンカット”など、制限があると、面白い体験ができますよね。レベルは違いますけど、私の家は、高校卒業後も20歳まで門限が12時で、それまでに何があっても家に着いていないといけなかったんです。遊びはもちろん、仕事のときも、連絡もせずに1分でも遅刻したらすごく叱られました。ドラマの打ち上げなど、ゆっくりできないのは残念でしたけど、限られた時間だからこそ、『絶対あの人にお礼を言おう!』とか、ダラダラしないで過ごすことができた。シンデレラだって、魔法が切れるのが朝の5時だったら、その後捜してもらえなかったかもしれないですよね? 何か制約があったほうが、日常ってドラマチックになるんです」

(菊地陽子 構成/長沢明)

土屋太鳳(つちや・たお) 1995年生まれ。東京都出身。2005年芸能界デビュー。08年、黒沢清監督「トウキョウソナタ」で映画初出演。15年、NHK連続テレビ小説「まれ」で主演を務める。映画、ドラマ、舞台のみならず、ダンサーとしても様々なアーティストとコラボ経験を持つ。現在Netflix「今際の国のアリス」が配信中。公開待機作に、「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」など。

>>【後編/土屋太鳳 父は苦労人、母は妖精…家族5人で朝までじっくり話したこと】へ続く

週刊朝日  2021年2月5日号より抜粋