資金面にそれほど心配がなかった男性にとって、予想外につらかったのは“疎外感”にさいなまれたことだという。退職して数カ月後は、とくに「気持ちがどん底に落ちた」。かつての職場の同僚がコロナ対応に忙殺されていたことから、罪悪感にも襲われた。

 それを乗り越えられたのは、学生時代の仲間とのつながりを再開したことがきっかけだ。いまはZoomを通じて、こうした仲間や職場の同僚たちとコミュニケーションをとるようにしている。

 同11月以降、人材教育関連会社からの業務委託で仕事も舞い込んだ。人材教育を担当した経験を生かし、幸せを実感できるようになった。

「仲間づくり」も大事なポイントだ。

「暇で何もすることがなく、母親と話すぐらい」

 58歳で早期退職したという中部在住の男性は、退職直後の様子を振り返った。かつての仕事仲間を訪ねたところ、「何をしに来たのか」と言わんばかりの雰囲気で“邪魔者扱い”。図書館で新聞や雑誌を読みまくっても、時間を持て余した。「暇で暇でしょうがなかった。誰かとつながりがないとすごくさみしく、社会とのかかわりを断ち切るのは無理と思った」

 そこで男性は、異業種交流会などに参加。いまでは自ら交流会を主催することもあり、生活に潤いが戻った。

 48歳で早期退職した北海道在住の男性も、「仕事以外の友人関係が希薄で、仕事を辞めてそれに気づいた」という。退職直後は一人暮らしでも大丈夫だとたかをくくっていたが、「自分が無力だとわかり、引きこもりになると感じた」。

 人との交流を求めて、地元の飲み屋にも通うようになり、高校の同窓会にも久しぶりに顔を出した。すると、経営者の同級生から「手伝ってほしい」と声をかけられ、その会社に再就職したというのだ。引きこもってばかりいては、人生は損をしてしまう。(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2021年1月29日号より抜粋