「この国を一つにする」と強調したバイデン氏だが…… (c)朝日新聞社
「この国を一つにする」と強調したバイデン氏だが…… (c)朝日新聞社

 ついにトランプ米大統領の粘り腰も終わりを迎えるのか。1月6日にトランプ支持者たちが連邦議会議事堂を襲撃し、5人の死者が出た事件で、トランプ氏が反乱を扇動したとして13日、下院で弾劾(だんがい)訴追する決議案が可決された。

 今後、上院での弾劾裁判で、議員の3分の2以上が賛成すれば有罪となる。下院では10人の共和党議員が賛成に加わったが、上院では17人以上が条件だ。裁判の見通しについて、ジャーナリストの中岡望氏は言う。

「共和党内の一部の穏健派やリベラル派は反旗を翻していますが、依然として共和党はトランプの党で影響力は衰えていません。今の情勢では17人が離反して賛成に転じるとは考えにくいです」

 トランプ離れがある一方で、カルト的な支持者の存在はいまだに大きいようだ。在米フリージャーナリストの新垣謙太郎氏はこう語る。

「トランプ支持者に話を聞くと、トランプ氏はもはや教祖であり、彼は決して悪くないという姿勢を崩しません。トランプ氏はこの5年間、民主党やメディアにずっとたたかれてきた。支持者の間にもその被害者意識は強い。今回の弾劾訴追でむしろ強固になっていると感じます」

 一方のバイデン氏。弾劾には否定的な立場だという。

「時間や労力を割きますし、急を要するコロナ対策など次のステップに進みたいバイデン氏にとってトランプ問題は邪魔なだけです。共和党の支持も取りつけたいバイデン氏は、弾劾によって反発を受けることを避けたいと考えているようです。民主党内ではそうした考えに反対する者もいて、割れているのが現状です」(新垣氏)

 バイデン氏は消極的でも、どこまでも食い下がるトランプ氏は民主党にとって厄介な存在。ペロシ下院議長を中心とする“トランプ弾劾派”は何としても裁判を成立させたいはずだと中岡氏は分析する。

「彼から公職に就く資格を取り上げたいと考えているはずです。ただ、トランプ氏をつぶせば保守層や極右にとって彼は“殉教者”となり、逆に影響力が強まる可能性があるというジレンマもあるのではないでしょうか」

 トランプ氏は4年後の大統領選出馬も視野に入れ、すでに動き出しているとの話も。

「一説には大統領就任式がある20日に、フロリダで大政治集会を開き、出馬宣言をするという話もあります」(中岡氏)

 トランプ騒動が収まる気配はない。(本誌・秦正理)

週刊朝日  2021年1月29日号

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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