「私は夫より8歳年下。実はそれだけで、年金額が約310万円も増えるんです。そんな機会を失うわけにはいきませんから」

 太矢さんが話しているのは、年金制度の「配偶者手当」と呼ばれる「加給年金」(以下、加給)のことだ。65歳以上の夫が20年以上、厚生年金に加入していて、65歳未満の妻と生計維持関係にあれば受給できる。20年度の年額は「39万900円」で、妻が65歳になるまでもらえる。

 月3万円を超すから、確かに大きい。だが当然、繰り下げ待機中は加給は出ない。

“年上女房”の場合は何も考えなくても済むが、いまの50~60代は夫が2~4歳年上のケースが多い。繰り下げか加給か、どちらかの選択となるのだ。太矢さんが言う。

「5歳以上は文句なく加給を選ぶのが正解だと思いますが、それ以下は微妙ですね」

 いったい何歳差までなら繰り下げを選んでもいいのだろうか。加給は厚生から支給されるため、厚生に絞って見てみよう。

 5年繰り下げた場合、累計年金額が繰り下げない人に追いつくには約11年かかる。それに、本来ならもらえた加給分が加わる。澤木氏によると、もらえなくなる加給の総額を、年間の年金増加額で割ると損益分岐点が延びる期間がわかるという。

「夫aのように5年繰り下げで厚生が約50万円増える場合は、5~4歳差だとあと4年、つまり85歳まで生きれば損しません。3歳差だと83歳、2~1歳差だと82歳まで長生きすればいい計算になります」

 その年数をどう見るかだが、それには個人差もありそうだ。ただし、年金額が高いほど繰り下げで増える金額も大きくなるため、追いつくのが早くなることは覚えておいたほうがいい。夫bだと5年で年間約76万円増えるため、5歳差でも3年足らずで追いつける。

 また、【戦略2】なら、繰り下げながら加給ももらえることをつけ加えておく。

 個々の家計で状況はさまざまに違う。今回取り上げたポイントをよく考えて、夫婦の年金戦略を練ってほしい。(本誌・首藤由之)

週刊朝日  2021年1月22日号

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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