専業主婦世代は厚生が少額なので、なおさら“主力”の基礎繰り下げが年金を増やすカギになる。

 どうやら、妻の基礎繰り下げは必須になっていきそうだ。とすると、夫婦の年金戦略は次の三つに絞られる。

【戦略1】 夫は基礎・厚生の両方、妻は基礎を繰り下げる
【戦略2】 夫も妻も基礎のみを繰り下げる
【戦略3】 夫は厚生を、妻は基礎を繰り下げる

 夫が何を繰り下げるか。基礎と厚生の両方なのか、そのいずれかなのか、で戦略が変わってくるのだ。

【戦略1】は60代後半の年金収入が妻の厚生のみになる。したがって夫、あるいは夫婦2人で働いて生活費を賄えることが条件になる。夫が会社員時代に専門職で、65歳以降も培った技術やノウハウを生かして安定した収入が得られる場合などが最適だ。

 実現できれば“最強のリタイア家計”が作れる。何しろ「標準」のa夫婦でも、3年程度繰り下げたころから2人の年金額が月30万円を超えてくる。年金だけで生活費が賄える水準だ。

【戦略2】は夫と妻の厚生を、【戦略3】は夫の基礎と妻の厚生を、それぞれ受給しながら繰り下げ待機をするケースだ。このため、a夫婦は月に「7万5千~11万円」、b夫婦は「7万5千~16万円」の年金収入がある。

 もちろんそれでは足りず、この場合も夫婦で働くことになる。むしろ労働収入しだいで、どちらの戦略を選ぶかを決めることになると言ってもいい。ちなみに、収入が下がらない生活を望んでいた冒頭のAさん夫婦は、【戦略3】を実践している。澤木氏が指摘する。

「皆さん仕事がないとおっしゃるが、月10万円ほどのアルバイト的な仕事はいっぱいあります。大企業の元社員はプライドを捨てられるかどうかがカギになる。夫婦でバイトすれば乗り切れる金額です」

 十分な貯蓄があるなら、60代後半は貯蓄を取り崩して対応する手もある。貯蓄は減ってしまうが、70歳以降に定期的な収入(年金)をぐっと増やせる。

 もう一つ、夫婦の年金戦略で考えなければならないことがある。夫婦の「年齢差」だ。

 FPの太矢香苗さんは昨年、夫が60歳の定年を迎えた。退職金を一時金と企業年金にどう振り向けるかなどを話し合った。5年先のことだが、夫の厚生は「絶対に繰り下げさせない」つもりだ。

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