室井:もちろんです。私の家も、江戸の終わりぐらいから富山の海のすぐそばで商売をやってたので、米騒動は私の先祖たちも見てたと思うんです。ただ富山県の人って、「出しゃばらない、我慢する」という体質だから、男の人を差し置いて女たちが一揆を起こしたということを言いたがらないんです。

林:そうなんですか。

室井:富山にとって米騒動は“黒歴史”です。社会科の教科書に載るような事件といったら、米騒動がいちばん富山の代表的なものなんですが、あんまり言いたがらないし、生き証人もいない。だから監督(本木克英)はよく調べられたと思います。

林:実は女性たち、そんなに大暴動を起こしたわけではなかったのに、新聞記者が大げさに書いて広めちゃったんですよね。でも、あれで内閣が総辞職したんだから、すごい話ですよ。

室井:シベリア出兵が間もないころで、倍にも3倍にもなっていく米の値段を、もとに戻してくれという市民運動だったと思うんです。

林:お米屋さんを襲ってみんなで米を分け合ったのかと思ったら、もっと理知的な動きだったんですね。食糧難に苦しむパリのおかみさんたちが「パンをくれ」と言ってベルサイユ宮殿まで行進したのと同じような。

室井:はい、そのとおりでございます(笑)。

林:室井さん、すごい迫力のおばあちゃんでしたね。髪はボサボサ、顔は真っ黒で。

室井:私が子どものころは、家長よりもっと偉いのがお年寄りで、みんなおじいさんおばあさんの言うことを聞いたんですね。これは大正7年の話なので、この時代もそうだったと思うんです。私がやってるリーダーの「おばば」に、村の「おかか」たちが従ってついていくという話で、実際、私が子どものころも近所にこういう人がいたんです。

林:えっ、そうなんですか。

室井:はい。魚の行商をしてるおばあさんで、肌が赤銅色で、金銀の入れ歯をして、鬼みたいな感じの人。でもみんなに一目置かれていて、それで私、この人のことが頭にパッと浮かんだんです。この映画は、私がやる「清(きよ)んさのおばば」というリーダーから、真央ちゃん演ずる「いとさん」というニューリーダーに移っていく、ある種成長の物語でもあるんです。

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