こうして現役プロデューサーをモデルにしたノンフィクションラジオノベル「Positive~コロナとホテルとラインチャット~」が制作された。ドラマパートには山崎一、辻しのぶ、玉置玲央、藤間爽子が出演。国立国際医療研究センターの大曲貴夫さんも「医者に対する不満、コロナへの恐怖。コロナ禍を乗り越えていくためにも同じ境遇の人同士で自主的にコミュニティを作るのは良いこと。患者さんから医者へのフィードバックもありがたい」とコメントを寄せた。そして昨年暮れ、文化庁から連絡があり、この番組は令和2年度芸術祭優秀賞を獲得することができた。

「コロナの陽性(Positive)を心のPositiveに変容させる試みに挑戦した番組。隔離ホテル内のLINEで交わされる会話を軸に、当事者だけが知り得る葛藤のディテールを如実に描き、軽やかな手法で課題を投げかける。制作者の実体験に基づいた素直な演出が功を奏し、若者への訴求も期待できる。時代を映し出す秀作である」

 この女性プロデューサーとは増山麗央。それこそ身を挺しての企画だった。「転んでもただでは起きない」。ラジオパーソンの面目躍如である。

 今年もコロナとの戦いは続く。誰もが陽性になっても不思議ではない。だからこそ、いざ陽性になったらどう対処するのか、どう乗り越えていくのか、リアルなノウハウが求められている。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2021年1月15日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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