「反訳書を見ていると明らかに内容が違っていることに気づいた。そこで反訳書と審査の録音を突き合わせたところ、4人の証言内容がおかしいことがわかった。多くの箇所で言葉を削除したり、話していない言葉が付け加えられたりしていた。検察が証拠を改ざんするなんて、信じられませんでした」(Aさん)

 改めて本誌でも、入手した人事院での審査時の証言の録音と「反訳書」を照らし合わせてみた。Aさんの弁護士が「一任事件」の違法性について質問している回答が削除されていた。また、聞いていない架空の「質問」が記されていたり、検察の主張に正当性を与える意味合いの文言が加筆されていた。

 Aさん側は裁判で神戸地検の「反訳書」について“改ざん”を主張し、録音に沿った書き起こし文書を裁判所に提出した。すると、神戸地検は1年以上も経過してから「要約書」として訂正してきたという。

 検察の証拠の改ざんで記憶に新しいのは、無罪判決を受けた元厚労事務次官の村木厚子氏の事件だ。その捜査の際、大阪地検特捜部によって、証拠品のフロッピーディスクのデータが改ざんされていることがわかり、検察の信頼は地に堕ちた。特捜部長ら3人が逮捕され、有罪となった。

 Aさんの弁護人はこう憤慨する。

「Aさんから反訳書の問題を指摘され、腰を抜かすほど驚きました。まさに証拠を“改ざん”して裁判に出してきた。中身はミスとは言い難いもので、A4サイズ1枚分ほども証言を削除している部分もあった。意図的に思えました」

 検察裏金問題を告発した、元大阪高検公安部長の三井環氏もかつて神戸地検に在籍した。

「検取でない検察事務官に、一任事件として起訴か不起訴かまでやらせるなんて、神戸地検でも他の検察庁でも聞いたことがない。事実なら違法です。人事院証言の反訳を都合よく書き換えて裁判に出したのは、検察の証拠“改ざん”。村木事件と構造は同じではないのか。虚偽公文書作成罪に該当する」(三井氏)

 神戸地検にAさんの件について質問状を送ったが、こう回答があった。

「裁判継続中ですので、回答は差し控えさせていただきます」

 裁判の行方が注目される。(今西憲之)

週刊朝日  2021年1月15日号

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今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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