環境や社会問題などへの取り組みを重視した「ESG投資」も広がる。脱炭素はもはや、企業の株価や資金調達にも影響を及ぼすようになってきた。

 さらに21年、新型コロナでビジネスの環境が一変したことで、業界再編も加速しそうだ。

「経営難に陥った会社や、社会や経済の変化に対応できない企業の買収や淘汰(とうた)に加え、国内外で競争力を高めるための“攻め”の合併・買収(M&A)も増える。業界を超えた“メガ再編”も予想されます」(同)

 1月1日には、日立オートモティブシステムズとホンダ系の部品メーカー3社が系列の枠を超えて経営統合し、新会社「日立アステモ」が発足。「100年に1度の変革期」とされる自動車業界は、「CASE」(ネットでつながる車、自動運転、シェアリングサービス、電動化)と呼ぶ課題に直面している。すでに20年3月、トヨタ自動車とNTTが「スマートシティ」の構築で資本・業務提携した。自動車と通信のトップ企業の合従連衡はまさに、生き残りをかけてメガ再編時代に突入した動きといえよう。

■オンライン診療、再エネにもDX

 再編や脱炭素への対応を読み解くうえで重要なキーワードが、「デジタル化」だ。経済評論家の加谷珪一さんは次のように指摘する。

「消費や経済が縮小するなかで、企業は商品やサービスを今よりも効率的に生み出す態勢を整える必要に迫られています。事業のデジタルトランスフォーメーション(DX)をどれだけ進められるかが、これまで以上に問われます」

 政府は9月にも、行政手続きのデジタル化の司令塔となる「デジタル庁」を設置する。省庁や自治体のDXが進めば、企業活動だけでなく、人びとの暮らしにも波及効果は大きい。

 DXやITは、再エネの促進にも意味を持つ。電力の需給を発電所ごとにきめ細かく管理するためには、欠かせない技術であるためだ。

 新型コロナの感染拡大を受け、臨時的に解禁されたオンライン診療も、菅首相の指示で「恒久化」に向けたルールの検討が進む。行政やエネルギー、医療といった今まで遅れていた分野での活用が期待されている。

 もっとも、変革の波は個人にも及ぶ。前出の田中さんは言う。

「これから大きな変化がいくつも起きる。そんな時に求められるのは、素直に、かつ、貪欲(どんよく)に学ぶ姿勢です。新しい知識や技術を得ることに消極的だったり、“待ち”の姿勢だったりでは置いていかれる。物事の本質である『真価』を見極め、常に『進化』を遂げようとする姿勢が大切です」

(本誌・池田正史)

週刊朝日  2021年1月15日号

著者プロフィールを見る
池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

池田正史の記事一覧はこちら