菅義偉首相 (c)朝日新聞社
菅義偉首相 (c)朝日新聞社

 2021年の日本経済は、どうやら「リセット元年」となりそうだ。新型コロナウイルスの影響で経済活動や働き方が変わるなか、価値観や意識を前向きに見直すチャンスだ。進化と真価。個人も、そんな“シンカ”が試される一年を迎えた。

【写真】ポスト菅といえば、一番人気はこの方

*  *  *

「最初に訪れる重要な変化の一つが、1月20日の米バイデン新政権の発足です。国際社会にも大きな影響を与え、日本など各国の立場や行動様式も変わらざるを得ない」

 立教大学ビジネススクール教授の田中道昭さんはこう説明する。

 バイデン氏は昨年の大統領選後、政権移行に向けた自身の専用サイトで、四つの重点課題として「新型コロナ」「経済再生」「人種」「気候変動」を挙げた。つまり、パリ協定やイランとの核合意、世界保健機関(WHO)などをめぐり、トランプ氏が軒並み破棄や離脱を表明してきた多国間の枠組みに、米国が“復帰”することを意味する。

「バイデン政権では、民主主義や国際協調など、社会的な正義や倫理観を重視する政策や外交が進められるようになります。自国や特定の層の利益や本音を重視した前政権で行き詰まった政策が前進するとみられる一方、関係国は米国と同じ正義や価値観に基づいた行動が求められるようになる」(田中さん)

 日本も早速、対応を求められたのが「脱炭素」だ。菅義偉首相は20年10月、50年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロをめざす目標を打ち出した。20年末には、小泉進次郎環境相らに対して「カーボンプライシング」の検討を指示。このため今年は、炭素税の導入に向けた議論が本格化する。

 そして経済産業省は、30年代半ばに新車からガソリン車をなくすことを検討中だ。電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)への切り替えを加速させる。この夏にはエネルギー基本計画も改定。電力の構成比を見直し、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの割合を大幅に引き上げる。

 温室効果ガスゼロの実現は容易ではないものの、こうした世界の潮流に乗り遅れ、日本企業も順応できなければ存続自体が危ぶまれる。

「規制や制度面だけでなく、通常の取引でも対応が求められる状況になっています。米アップル社は、30年までにサプライチェーンを含めた製造工程で温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると約束しました。独フォルクスワーゲンも、サプライチェーンのCO2排出をゼロにする目標を掲げています。こうした動きは今後もっと増えるでしょう。部品や素材を納めるメーカーは、対応できなければ取引を打ち切られかねない」(同)

著者プロフィールを見る
池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

池田正史の記事一覧はこちら
次のページ