もう一つは啓翁桜。これは、山形県の名産である。薄紅色の小さな花弁が極寒に開いて、時ならぬお花見が出来る。

 なんでも啓太郎という名の翁が昭和になって作ったからだそうで、その名を取って啓翁桜。温室で育てる彼岸桜の枝変わりだという。

 小さな蝶のような花が一斉に開いた後は緑の葉が出てくる。

 花と葉を二度楽しめるようで、その葉がまだ緑のうちに、正月に予定した書き下ろしの原稿を終えようと、いい目安になる。

 今年はコロナにかかわらず寒牡丹と啓翁桜が届いた。花たちに劣らず、自分で決めた仕事で花を咲かせなければと、今年も仕事部屋の机に向かっている。

週刊朝日  2021年1月15日号

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数

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下重暁子

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下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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