御厨:僕も「首相動静」を見てますが、「これは」と思うような人に会うんじゃなくて、どこかの会社の社長さんとか、そういう人ばかりですよね。菅さんには、僕も官房長官時代に「ORIGAMI」に呼ばれて、朝に出向いたことがありますけど、菅さんはこっちに食べさせて、本人はほとんど何も食べないんです。ちょっと食事したら、すぐ官邸へ行っちゃう。完全な仕事人間で、余裕がない。

林:動静を見てると、たまに会う相手はテレビ局の社長とか、IT企業の社長とか……。

御厨:彼は実務家の実務的な話を聞くことが勉強になると思ってきた人なんですよ。極端に言うと、たぶんあの人には哲学がない。イデオロギーもない。さらに文化的なことに対する関心もない。合理主義と現場主義の塊のような人ですね。

林:菅さんにはもっと頑張ってほしいですね。さて、先生にもう一つお伺いしたいのが、先生が日本で確立されたオーラルヒストリーについてです。私も小説家としていろんな人に話を聞く場面がありますが、証言というものは、聞く人によって内容がかなり違ってくることがあります。先生は人から聞く話を、どういうふうに見極めて取捨選択されるんですか。

御厨:誰をインタビューするか、その人の一生を全部聞くのか、ある種の政策、その人のある経験だけに焦点を当てるのか等々いろいろあるわけで、どういう攻め方をするかは聞き手の関心によります。完全に中立で、その人から真実を全部取り出すなんていうオーラルヒストリーは基本的にできないし、ないんです。

林:そうなんですか。

御厨:僕が主として取り組むのは政治家や官僚ですが、ライフヒストリーといって、その人の生まれた直後から現在に至るまでをずっと聞いていくオーラルが僕は好きなんです。大体4月から始めて次の年の3月まで、1カ月に一ぺん、2時間ずつ聞くんです。いちばん最初に聞くのは、生まれたときから幼少年期のことです。これはこっちも調べようがないから、話し手が自由自在にしゃべれる領域なんですよ。だんだん打ち解けてきて、2回目は、成人したあたりから会社に入ったり官僚になるあたりの話を順次聞いていって、夏ごろには局長になったり大臣になったりするあたりを聞いて、秋口になるとそろそろ第二の人生に入って、冬になると「今いちばん親しいのは虎の門病院」とかいう話になるわけ(笑)。

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