御厨:そうなんですよ。僕らが天皇退位の会議をやったときも、その最後のところで、「皇位継承者の問題について、すぐに別途有識者会議を開いて検討を始めるべし」と言ったし、国会もそういう決議をしたんです。だけど、あのときは天皇退位で精いっぱいだから、退位されて次の天皇になってから検討しようということで、2~3年はあいだを置くということを官邸の連中は言ってましたよ。僕は「それでは遅い。今の天皇に人気と関心があるうちに話を進めないとまずい」と言ったんです。

林:それはすごいご慧眼ですね。

御厨:ところが、政府はもともとあんまりやりたくなかった。安倍さんは女系・女性天皇には反対ですからね。安倍さんは僕にはっきり言いましたよ。

林:なんて言ったんですか。

御厨:「こういう問題はあせらないほうがいいんだ」と言うから、「悠仁さんの先はどうするんですか」と聞いたら、「まだ40年あるよ。そのあいだに日本は“神風”が吹くから、必ずいい解答が出る」と言ったわけ。それを聞いた瞬間、「あ、この人は(女系・女性天皇問題を)やりたくないんだな。自分のときにやったと言われるのが嫌なんだな」と思いました。

林:ほぉ~。後々何か言われるのが嫌だったのかもしれないですね。

御厨:安倍さんはあのとき、つながりのある右の支援団体から「そこは絶対曲げないでくださいよ」と言われてた可能性が高いわけですから、それはできなかったと思いますね。

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

御厨貴(みくりや・たかし)/1951年、東京都生まれ。75年、東京大学法学部卒。同大学助手、東京都立大学法学部教授、ハーバード大学客員研究員、政策研究大学院大学教授、東京大学先端科学技術研究センター教授を経て、現在東京大学先端科学技術研究センターフェロー、放送大学客員教授。内閣府公文書管理委員会委員長、「東日本大震災復興構想会議」議長代理、復興庁復興推進委員会委員長代理などを歴任し、2016年には「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」座長代理に就任。

週刊朝日  2021年1月1‐8日合併号より抜粋

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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