「俺、おまえがきてくれてうれしいよ」「覚えていてほしいんだよ、俺のこと」

 そんなセリフの『ともだちが来た』は1994年初演以来、50団体以上が上演し、吹越満、伊達暁、長塚圭史と、いろんな役者が演じてきた。フィリピンやインドネシアなどの海外のカンパニーも公演している。

 今年コロナ禍の師走での上演は、これから広い世界が待っているのに肝心の出会いがなくなった今の10代の身になってみると、また特別の切なさが込み上げた。学校に行っても授業はない、ともだちとも会えない。そんな中で友情の物語。

 外は寒い師走の夕方だった。観劇後、下北沢商店街を物色し、番組の仲間たちとおでんを食べ、赤星ビールを注ぎあった。

 ガラス窓越しに外を見ると、本作演出の中山祐一朗が自転車に乗り、「よいお年を!」と言わんばかりに僕に大きく手を振ってくれた。今しがた見たばかりの芝居の光景と同じだった。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2021年1月1‐8日合併号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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