いうまでもないだろうが、コロナ禍は生産者にも大きな打撃を与えた。

 青森県の「小山内和好りんご園」では、独特のブレンドをしたジュースを作っている。サンふじをベースに、酸味の強いジョナゴールド、やはり酸味の強い陸奥を加えて、まろやかな味わいが完成する。知る人ぞ知る逸品だ。しかし……。同園の夫人が説明する。

「うちのような小さくてあまり有名でないところは、東京などでの催事に出してもらうのがとても大事なんです。いつも仙台、東京、大阪で参加させてもらっていました。今年も2月に東京で催事があったので、主人は一足先に東京に行ってたんです。私は初日の朝に新幹線で向かったんですが、ドタキャン。新幹線の中で中止の連絡をもらって。途中で降りるわけにもいかなくて、東京で主人と途方にくれました。その後はどの催事もすべて中止。大変でした」

 せっかく開発した新商品が、華々しく販売されなかったというケースもある。

 滋賀県で鮒寿司を作る「遠久邑(おくむら)」では、画期的な商品の開発に成功したばかりだった。通常なら鮒の腹の中に白米を入れて発酵させるのだが、白カビチーズを入れて発酵させたのだ。

「鮒寿司は普通、卵のある雌のほうが需要が高いんですけど、雄の鮒に新しい価値を持たせたいと思ってね。そこで、チーズを入れて発酵させてみたんです。5年かけてようやく完成しました。今年1月から宣伝をして、軌道に乗せようと計画していたんですが、それができなくて」(店主)

 こうした各地の生産者を、ぜひとも応援したいものである。

 もっとも、転んでもただでは起きない(!?)作り手もいる。

 創業は弘化元(1844)年。現存するおでん屋として日本最古の歴史を誇る、大阪・道頓堀の「たこ梅」だ。大阪ではおでんは関東煮(かんとだき)と呼ばれ、種に鯨肉があるのが特徴。

 道頓堀は現在放送中のNHK朝の連続ドラマ「おちょやん」の舞台でもある。通常なら、連ドラの舞台は観光客でにぎわうものだが、

「いえいえ。人なんか全然出ていません」

 と嘆くのは、店主の岡田哲生さん。その代わり、春先から力を注いでいる取り寄せ商品が、好評を博しているという。

「緊急事態宣言が出たときに、これはなんとかしないといけないと思いまして。それまで取り寄せでは、定番商品12品入りのセット税別3千円が人気だったんですけども、それにサエズリ(鯨の舌)とコロ(鯨の皮)を加えて、税別5670円で出したんです。コロナなんかなくなりゃいいな、コロナゼロだ、と。ほんとは6600円くらいなんだけど、こういうときやし、まあええかと。おかげで今は、かなりよく出ています」

 自宅で各地の美味を食べつつ、コロナゼロになるよう祈りましょう。(本誌・菊地武顕)

週刊朝日  2021年1月1‐8日合併号