ルメールを語るときに、誰もが「人柄の良さ」を挙げる。古くから親交のある競馬ジャーナリストの平松さとしさんが語る。

「怒っているのを、見たことがありません。若手が危ない騎乗をしたときに注意をすることはありますが、怒るということはしません。レースで不利になる行為を受けても、『怒ったところでレースをやり直せるわけではないから』と受け止めます」

 フランス出身のルメールは、日本での騎乗経験も豊富な同国出身の先輩オリビエ・ペリエ騎手の助言を受け、2002年から日本での短期騎手免許を取得して、騎乗を開始。05年の有馬記念では、ハーツクライで当時無敗のディープインパクトを破った。

 15年からは通年の騎手免許を取り、日本を主戦場に。

「フランスの大オーナーであるアガ・カーン氏との契約が更新されず、新天地として日本を選んだそうです。奥さんの後押しもあったようです」(平松さん)

 来日してからは日本語学校に通った。「心身ともに充実しています」というフレーズを好んで使うなど、言葉を貪欲に吸収し、発している。

「生活の中で聞き覚えた言葉を披露して、『オーッ』と反応があると嬉しいようですね。競馬場で『タクシーで帰りますか、自車で帰りますか?』と聞かれ、自車という言葉を覚えて使ってみたけど、周囲の人は普段使わない言葉。そのため外してしまったようですけど。和食も好きなので、寿司はワサビ入りで食べられる。ダメなのは納豆。臭いと言って嫌がります。チーズの匂いは大丈夫なんですけどね」(平松さん)

 夏競馬で函館、札幌に行くと、魚介類を堪能。カニとウニを食べては、「なまらうまい」と北海道弁を多発するらしい。
 
 ルメールに有馬記念の展望を聞いた。

「フィエールマンは有力候補の一頭になると思います。天皇賞(秋)での走りも素晴らしかったですし、天皇賞から有馬までの準備期間も充分なので、いい状態で走れると思います。2500mは、彼にとってベストの距離だと思います。いいパフォーマンスを見せて、私にとって3度目の有馬優勝を勝ち取りたいです」
 
 そして来年の抱負は?

「20年と同じような素晴らしい年になるといいなと思います。1つでも多く勝つために、毎週末、最善を尽くしたいと思います。そして、21年がすべての人々にとってより生活しやすくなり、ファンが競馬場に来て馬や騎手を応援できる日々が戻ることを願っています」
 
 競馬場で「無双」に声援を送れる日が待ち遠しい。(本誌・菊地武顕)

週刊朝日  2021年1月1日-8日新春合併号に加筆