冠動脈の画像を立体化して見ることができるという。従来は目視で狭くなっているかどうかを判断していたため、正確な狭窄度を把握できていないこともあった。

「たとえば、従来、治療対象となっていた75%狭窄といっても、見る位置によっては50%だったり、逆に90%だったりということもありえました。現在は、見た目ではなくFFRなどで虚血の有無を判別したうえで治療を決めています」(中村医師)

 FFRで測定して、狭窄部位の先の冠動脈圧が、狭窄部位の手前と比べて2割以上下がっている(FFR値0.8以下)と、治療が考慮される。0.8以上の人は薬物療法で対応する。

「きちんと虚血を評価して、虚血がある場合は治療したほうが成績が良いという論文もたくさん出ました。その結果、明らかに虚血が証明できない場合は、カテーテル治療や手術など、患者さんのからだに負担のかかる治療はしないで、薬物療法をおこなっています」(同)

 検査・診断方法の進化により、血管内と血流の詳細な情報を得られるようになった。その検査結果により、薬物療法か、カテーテル治療か、外科手術かが決められる。

 先述したとおり、生活習慣病が大きな原因であるため、40代、50代になったら、肥満予防のための食生活や運動、禁煙などによりからだに気をつかうことが重要だ。

 10年後の心筋梗塞になるリスクを予測できる「吹田スコア」という指標がある。大阪府吹田市にある国立循環器病研究センターが、1989年以来長期に追跡してきた、吹田市民90%の病気の要因を調べた大規模な疫学調査だ。このデータは、日本全国の人口90%を占める都市部の住民の状況を予測できるという。性別、年齢、血圧値、コレステロール値、喫煙状況、糖尿病の有無など、さまざまな項目を検証しているため、それらをチェックしていくと自分の10年後の心筋梗塞リスクを調べることができる。気になる場合は、かかりつけの医師に聞いてみるといいだろう。

 季節や時間帯によっての注意も必要だという。

「明確な科学的根拠は示されていませんが、急性心筋梗塞は、冬場と早朝に発症しやすいということはあると思います。よく言われるヒートショックはお風呂場の脱衣場で急に寒くなって血圧が上がり、その後の入浴で急激に血圧が変動するために起こると言われています。特に高齢者は、注意するに越したことはありません」(伊苅医師)

 心不全になる原因の3~4割は冠動脈の疾患だ。

「心不全パンデミック」という言葉もある。超高齢社会である日本では、今後、心不全患者の増加により、医療機関の逼迫(ひっぱく)が危惧されている。

 その原因の多くを占める狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患の予防と治療、そして二次予防が求められている。(ライター・伊波達也)

週刊朝日  2020年12月25日号