イギリスの研究では、歯周病があるアルツハイマー病の人のほうが病気の進行が速く、歯周病がない人はゆっくりだったことが報告されている。歯周病が発症や病気の進行に関係しているというわけだ。武准教授は言う。

「歯周病起因のアミロイドベータは脳の中でも脳の外でも多く作られていて、それがアルツハイマー病の進行を早めるのではないかと考えられます」

 アルツハイマー病の場合、一部を除いて進行はゆっくりで、一般的にアミロイドベータなどがたまり始めてから認知機能に影響が出るまで、20~25年かかるとされる。

 一連の研究を踏まえ、武准教授は語る。

「認知症が進行してしまうと、口腔ケアもおろそかになり、歯周病が悪化しやすい。大事なのはその前に手を打つこと。まずは、かかりつけの歯科医師から自分に合った口腔ケアを教わり、それを毎日続けることが大切です」

 口腔細菌で認知症に関わっているのは、歯周病菌だけではなさそうだ。11月24日、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)などが、虫歯菌の一つ「ミュータンス菌」が微小な脳出血の原因になっていると報告した。

 一般に脳出血は命に関わったり、麻痺などの後遺症を残したりするため、健康上の大問題となる。だが、本人が気づかないような小さな出血がある場合も、後々に認知症を引き起こすとされている。

 調査では、脳卒中で同センターに入院した患者の歯垢(しこう)を採取。そこに含まれるミュータンス菌と、MRI検査で見つかった微小な脳出血との関係を見た。

 すると、あるタイプのミュータンス菌(cnm陽性ミュータンス菌)が多かった人ほど微小な脳出血を起こしており、そのリスクは少なかった人と比べ4.7倍にも上っていた。調査した脳神経内科の猪原(いはら)匡史部長は、こう述べる。

「cnm陽性ミュータンス菌は血管のコラーゲンと結合して炎症を起こし、それが微小な出血をもたらしていると考えられます。血管性認知症の一部は小さな出血を繰り返すことでも起こるため、この微小出血が血管性認知症の一因となっている可能性があります」

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