もっとも、現憲法は基本的人権、言論・表現の自由、男女同権など、日本人ではとても構築できない民主的な内容だ。だが、米国が絶対に認められない事柄があった。

 軍隊を持つことである。

 米国など連合国にとって、日本を安全な国にしておきたかったからだ。緊急事態のわかりやすい例は、他国に攻められるという事態である。その事態に対応するためには軍隊が必要になる。

 だが、米国など連合国にとっては、日本に軍隊を持たせるのは危険極まりない。絶対に軍隊を持たせない。そのためには、緊急事態ということが生じない、つまり、緊急事態を認めてはならなかったのである。

 そして、戦争と惨憺たる敗戦を体験している日本人たちは、自国の軍隊の危険さを嫌というほど知っていて、米国に自国の安全保障を委ねているほうが安心できる、と捉えていたのである。

 だが、戦後世代にとっては、この矛盾はどのように感じられるのか。それを論じてみたい。

週刊朝日  2020年12月25日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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