「感染対策優先か経済優先か、政府内で本質的な議論ができていない。この迷走には、コロナ対策を担う西村康稔経済再生担当相が菅首相とひそかに対立していることが影響しています」

 西村氏は安倍政権時代にコロナ対策担当相として全権を任され、テレビ出演など露出が激増した。妻の父が岸信介元首相の側近だった吹田愰元自治大臣で、安倍氏とは「身内」のような関係。こうしたアドバンテージもあり、一時は「将来の首相候補」とまで言われた。だが、菅政権が誕生してからは存在感がまたたく間に低下。前出の官僚はこう話す。

「安倍政権時代、西村大臣はコロナ発生初期の感染防止対策で専門家会議と官邸の根回しや調整役を担った。尾身会長と携帯電話で緊密にやりとりする関係を築くなど、専門家が政権のシナリオ通りに動くようコントロールしてきた。それが、今では尾身会長がGo Toを批判するなど、菅政権の方針と真っ向から対立することを言っている。政府内では、西村大臣が調整をせずにあえて尾身会長に自由に発言させているのではないかと疑念を呼んでいる」

 この間、もともと良好な関係だった菅首相と西村氏の間の溝が、徐々に広がっているという。

 安倍政権時代に西村氏が重用されたのには、同じ経済産業省出身の今井尚哉首相秘書官(当時)がコロナ対策の中心だったことも影響したと言われる。一方、当時、官房長官だった菅氏は一時期、今井氏らと対立し、重要な意思決定のプロセスから外されていた。

 それが、Go To政策などで巻き返した菅氏の政権奪取を機に力関係が逆転。今井氏は政権中枢を去り、当初、官房長官など重要ポストへの起用がささやかれた西村氏も結局は留任。菅政権ではコロナ対策担当相の役割は以前ほど重視されなくなった。さらに、西村氏の威信を低下させる事件があった。政治ジャーナリストの角谷浩一氏は言う。

「10月下旬に西村氏が突然、経団連などの経済団体に年末年始休暇の分散を要請して、自民党内から激しい反発を受けました。年末年始の日程は年明けの国会や解散総選挙のスケジュールに影響するからで、二階氏は『聞いていない』と不快感を示した。その結果、西村氏は自民党本部に呼ばれて釈明に追われることになりました」

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残業月300時間で官僚も疲弊