歌に対する関心が生まれたのは13歳のとき。藤原歌劇団のオペラ「マクベス」でフリーアンス王子に抜擢されたことがきっかけだった。

「子役としてではあるけれど、舞台の真ん中に立ったときに、すごく気持ちがよかったんです。『楽器の演奏者なら居場所はオーケストラピットだけど、歌ならステージに立てる。これはいいぞ!』と味を占めて(笑)」

 当時はまだ声変わり前。もう一度ステージの真ん中に立つには、きちんと歌を勉強する必要があると考え、高校は声楽専攻へ進み、3年後には、東京芸術大学の音楽学部声楽科に現役で合格した。でも当時はまだ、体も声も未熟だったという。

受験の成績としては、ソルフェージュ(楽譜を読むことを中心とした基礎訓練)とピアノは手応えがありましたが、歌の成績はそれほどでもなかったはずです(苦笑)。芸大の声楽科って、別の音大を出てから受験する人もいれば、3浪の人、5浪の人とか、いわゆる“成熟した大人の声”の人が大勢受験するんです。なので入学後も、声が大人になるのを待っていた期間が長かったですね」

 今でこそ芸大卒のミュージカル俳優といえば、「題名のない音楽会」の司会を務める石丸幹二さんや、ミュージカル界のプリンス・井上芳雄さんなどの名前がすぐ挙がる。が、田代さんが芸大に在学していた、今から15年ほど前までは、「ミュージカルがやりたいのに芸大に来るなんておかしい」と言われるのが普通だった。

田代万里生(たしろ・まりお)/1984年生まれ。東京芸術大学音楽学部声楽科テノール専攻卒業。在学中にオペラデビュー。2009年、ミュージカル「マルグリット」でミュージカルデビュー。近年の主な出演舞台に「スリル・ミー」「きらめく星座」「ジキル&ハイド」「マリー・アントワネット」「ラブ・ネバー・ダイ」「エリザベート」「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」など。第39回菊田一夫演劇賞受賞。

※【役作りで8キロ減もストレスなし! ミュージカル俳優・田代万里生の減量法】へ続く

(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2020年12月18日号より抜粋