石井:はい。武藤兵吉というのが本名で、何となくおじさんの感じがするから、私の「石」が欲しいと言ってたし、石坂洋次郎先生(小説家)の「石坂」がいいかなと思って。下の名前の「こうじ」も、漢字でいろんな字を書いて、その中から「自分で選びなさい」って。

林:先生は作家の方とのお付き合いもいろいろあったんですか。

石井:私、山本周五郎さんの作品が好きで、周五郎先生の「こんち午の日」という作品をドラマ化したいと思って、横浜にあった先生の仕事場にうかがったんですけど、扉を開けていただけないんです。何回もしつこくうかがったら、ガラッと開けてくださって「入れ」とおっしゃるんです。入って黙ってたら、「うちには酒か水しかないぞ」「私、お酒飲めません」「そこに水道があるから、自分で水を飲め」とおっしゃって、それが先生との初めての会話だったの。

林:ほぉ~、昔の作家ってけっこう威張ってたんですね(笑)。今だったらまずお通しして、お茶とお菓子ぐらいは出しますけど……。

石井:そんなのとんでもない。とにかく一生懸命お願いしたら、先生は一言「やれ」とおっしゃって、「今日午の日」(59年)というタイトルで放送されることになったんです。

林:それがご縁で「山本周五郎アワー」が始まったんですね。

石井:おもしろい話があって、うちの父に周五郎先生の話をしたら、「銀座に山本周五郎という質屋がある」って言うんです。「質屋?同姓同名なのかな」と思ってその話を周五郎先生にしたら、「そこにちょっといたことがある」とおっしゃるんです。「その質屋から小説の原稿を出版社に送るときに『山本周五郎方清水三十六』(清水三十六は本名)と書いたら、『山本周五郎』のほうをペンネームにされちゃったんだ」とおっしゃってました(笑)。

林:ひょえ~、そんなエピソード、いま初めて知りました。向田邦子さんともお付き合いがあったそうですが、なかなかホンを書いてもらえなかったそうですね。

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