東京工芸大学の関連施設、杉並アニメーションミュージアムの担当者は、切り絵アニメは芸術性の高いアートアニメだと話す。

「一般的なテレビアニメは30分のアニメをつくるのに数千枚の絵を描き、1枚ずつ動かして動きを表現します。しかし、切りアニメは、福笑いのように、目と鼻と口や手足をパーツに切り分けて動かします」

 日本でも、今年4月にはじまった子ども向け番組『シナぷしゅ』(テレビ東京系)で放映中の切り絵アニメ「ヒカリの森の黒うさぎ」が話題を集めている。

 光が差し込む豊かな森を舞台に、黒うさぎの赤ちゃんがアリやチョウ、カエルに猿など森の生き物と出あいを描いた物語。黒うさぎの赤ちゃんが雨がやんだ後にできた水たまりに自分の姿を映しジャブジャブと遊ぶなど、小さな発見と成長が丁寧に描かれる。

 この切り絵アニメの制作者は、名取祐一郎さん。

 名取さんは作曲家の妻と3人の子どもの5人家族。7年前に、豊かな自然のなかで子育てをしたいと、歴史と文化にも恵まれた石川県加賀市に移住した。名取さんは切り絵という昔ながらの技法とICT(情報通信技術)を駆使して作品を作りあげる、令和時代の切り絵アニメ作家だ。

「ヒカリの森の黒うさぎ」のアニメは、一枚一枚が手描きだ。水彩画やクレヨンを使うことで絵に深みや味わいを出す。

「キャラクターの目や手足といったパーツを切り分けて、パソコンに取り込んだら全国に在住するアニメスタッフに送ります。彼らが動きをつけてくれる。スタッフとの打ち合わせは、主にテレビ電話。音楽は、作曲家の妻が担当です。コロナ禍前からの在宅ワークですが、地方住まいでも不自由はないです」(名取さん)

 日本切り絵協会理事の杉浦正道さん(76)さんによれば、切り絵の歴史は紀元前までさかのぼる。生れたのは、古くから紙の文化を持つ中国の地。はさみや彫刻刀で模様をつける剪紙(せんし)紙は、農村を中心に各地で伝承され広がった。

「昔から、神と紙は貴重なものでした。日本では、『きりがみ』としてお寺や神社の祭事、正月や七夕の飾り紙、能の舞台などで使われてきた。自由な創作切り絵が一般に浸透したのは、ここ半世紀ほどです」(杉浦理事)

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浮世絵とコラボにはまる