「仕事の忙しさにかまけて買い物ができなかったときは、いっぺんにドカッと買っていたので、無駄な買い物も多かった。でも、あの時期は必要最低限なものしか買わなかったので、普段、自分がいかに無駄な買い物をしていたかを戒める、いい機会になりました(笑)。ただ、お洋服が大好きだった私が、3日間同じ格好で過ごしても平気になってしまったのは、我ながらちょっといただけないな、と(笑)。人に会わないと着るものなんてなんでもよくなってしまうけれど、好きなお洋服を着てお出かけする幸福から縁遠くなったときは、内心『このままではいけない』と焦りました」

 私生活がどんどんシンプルに、余計なものを削いでいく方向に変化していく中、「リモートで、三谷幸喜さん脚本の舞台『12人の優しい日本人』に出演しませんか?」というオファーがあった。実際にリモートで芝居に挑戦してみると、「どんな状況下にあっても、発想の種は転がっている」ということに気づかされた。そこから、知り合いのプロデューサーと相談し、リモートで、大泉洋さんとの2人芝居「2020年 五月の恋」がスタートした。間違い電話をきっかけに、離婚以来4年ぶりに連絡を取るようになった元夫婦。その交流を描いたショートドラマだ。

「ある意味、コロナ禍だからこそ生まれた作品です。東日本大震災のときもそうでしたが、有事の際は“俳優ってなんて無力なんだろう”って思うことが多いんです。歌を歌って誰かを励ませるのでも、ネタで誰かを笑わせられるわけでもない。一人では何もできないのが俳優です。でも、リモートドラマは、工夫と知恵とアイデア次第で、俳優にも発信できる何かが作れるんだとわかった。『毎日の励みになる』という声を聞くことができたのはとても嬉しかったです」

 放送から約半年後、「五月の恋」は、東京ドラマアウォード2020単発ドラマ部門優秀賞を受賞した。

 吉田さん自身も、自粛期間中に映画や音楽、YouTubeの動画などに救われた。自粛期間が明けると、映画館に行って映画を見たり、ショーウィンドーに飾られた洋服を衝動買いしたり。

「“このお洋服を着てどこに行こうかな”とか考えるだけで、一気に気持ちにハリが出た(笑)。最初は、“おひとりさまでも全然寂しくない”ぐらいに思っていたのが、やっぱり社会というのは、人との触れ合いによって成立しているんだな、ということも痛感させられました」

※【吉田羊「これが最後でも…」 コロナ禍で撮影再開、“ハマリ役”への覚悟】へ続く

吉田羊(よしだ・よう)/福岡県久留米市出身。1997年に舞台デビュー。ドラマデビューは2007年。NHK大河ドラマや連続テレビ小説への出演を経て、14年のドラマ「HERO」で人気がブレーク。主な映画出演作に「SCOOP!」(16年)、「コーヒーが冷めないうちに」「ハナレイ・ベイ」(すべて18年)、「記憶にございません!」(19年)など。現在TBS系金曜ドラマ「恋する母たち」に出演中。

(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2020年12月11日号り抜粋