看護師のバーンアウトが他職種より高かった理由を、松尾医師は「業務内容の違いが関係するのでは」と推測する。

「例えば、医師は軽症者に対しては、iPadやインターホン越しの診察で感染患者さんとの接触を減らし、曝露(ばくろ)の機会を少なくすることができます。しかし、看護師は食事の介助や痰(たん)の吸引などで感染患者さんと接する時間が長い。心身のストレスを抱えやすい可能性があります」

 関東地方の医療機関で働く看護師のSさん(40代)は、3月からコロナ専用のICUで重症患者をみている。やりきれない気持ちを打ち明ける。

「最初のうちは医師も『チームでがんばろう』と私たち看護師と一緒になってICUに入り、陽性患者さんを診てくれていました。しかし、今は診察した後は安全な非汚染エリア(グリーンゾーン)に戻り、そこから指示を出すだけの医師も出てきています。そういう姿を見ると、なんで自分たちだけという気持ちになりますね」

 Sさんの勤務する医療機関では、使った器具の消毒や汚染された汚物の処理は、担当が決まっているわけではない。だが、医師はほとんど手を出さず、結果的に看護師がやっているという。

 また、コロナでは肺の画像検査は必須だ。ポータブルの機器を用いて病床で行うことになるが、その際、感染患者の体位を変える必要がある。当然ながら患者に触れるため感染リスクが上がる。

「装着していた人工呼吸器が外れたときに、患者さんがむせて、咳(せき)や唾(つば)などの飛沫(ひまつ)が顔面にかかったことがあります。もちろんN95のマスクを着け、フェースシールドをしていましたが、『感染したかもしれない』と、恐怖がこみ上げました」

 看護師同士で「(ウイルスを)浴びてる、浴びてる」と注意し合うこともあったという。

 Sさんの医療機関では陽性患者がゼロになったことはなく、今もICUには、人工呼吸器を装着した陽性患者がいる。

「1日8時間勤務のうち、防護具を着ているのが6時間ほど。その間、トイレにも行けず、水分補給もできない。脱いだ後にトイレに駆け込んだり、脱水でぐったりしたりする看護師もいます」

 防護具を着けるのが長時間になってしまうのは忙しさもあるが、

「マスクやガウンが枯渇していたから、極力節約をしなければという思いが強かった。看護師長からは『休憩するように』と言われましたけど、休むということは防護具を脱ぐということ。不足していることがわかっていたので、休憩する看護師はほとんどいなかった」

 と振り返る。(本誌・山内リカ)

週刊朝日  2020年12月11日号より抜粋