朝ドラ「エール」への出演をはじめ、2020年は実りある一年となった。森山直太朗作詞・作曲のニューシングル「君に伝えたいこと」が12月2日に発売され、いま、山崎育三郎が「伝えたいこと」について、語ってくれた。

―いよいよ12月。2020年は、山崎育三郎さんにとって、どのような1年になりましたでしょうか。

 毎年恒例の全国ツアーを行ったのが、今年の1月と2月でした。そのころから少しずつ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が出始め、横浜アリーナで『美女と野獣』のコンサートを行った2月下旬あたりから、いよいよ本格的に世の中の状況が変わってきたという印象です。その後、4月に予定されていたミュージカル『エリザベート』の全公演中止、出演した(NHK連続テレビ小説)『エール』の撮影も、約2か月間ストップしてしまいました。

——4月8日には緊急事態宣言でしたね。

 そこからの自粛期間は、この仕事を始めてから、ほとんどプライベートのない状態を過ごしてきたこともあって、初めてゆっくり過ごすことができた時間だったかもしれません。家で過ごす時間というものがすごく新鮮で。この期間をポジティブにとらえようと思ったことで、いい時間を過ごすことができたと思います。

——『エール』の撮影が再開されたのは6月のことでした。

 現場に行くと、スタッフや出演者、みんながマスクやフェイスシールドを付けていたりして、環境が大きく変わっていました。撮影期間が本来の予定から伸びたことで、『エール』という朝ドラの存在が本当に大きい1年に、結果的になった気がします。作品のタイトル通り、僕自身みなさんからのエールに励まされ、僕たちもみなさんにエールを届けるという思いで、スタッフ・出演者が団結して撮影にのぞんでいきました。

——『エール』では、山崎さんは主人公の古山裕一の幼なじみ、佐藤久志役として大きな存在感を放たれていました。新曲の「君に伝えたいこと」は、ドラマで裕一と久志に音楽の楽しさを教えてくれた恩師の藤堂清晴先生を演じた、森山直太朗さんの手による曲です。この曲は、「久志」として歌われたのでしょうか。または、あくまでも「山崎育三郎」として歌われたのでしょうか。

 藤堂先生からいただいた曲ということもあり、はじめはどうしても、久志として聞いてしまう部分はありましたが、僕自身として歌いました。この作品は、自分の大切な人との決別と感謝がテーマです。僕自身、これまでの人生の中でさまざまな「別れ」を経験しています。そんなことを思い返す瞬間もあったりしながら、等身大の山崎育三郎として歌唱しました。佐藤久志として歌うと、また全然違うものになっていたでしょうね。

——美しいピアノバラードです。

 はじめは、壮大なオーケストラでという案もありましたが、等身大の山崎育三郎を表現したいという思いもあり、最終的にピアノだけで勝負しようということになりました。レコーディングでは2台のピアノと一緒に収録し、歌い直しのない一発録りのスタイルで、非常に緊張感のあるものになりました。そんななかで、等身大の自分の心の奥にあるものを語り掛けるように歌うという新しい表現方法を、直太朗さんに引き出していただきました。歌うたびにすべての気持ちが持っていかれるくらい、思いをこめて歌わせていただいています。別れはあるけれども、それは誰にも訪れること。その人との出会いを胸に、次に進む一歩につながるような楽曲です。

——今回の曲のタイトルにかけて、いま、育三郎さんが「伝えたいこと」とは何でしょうか?

 SNSをはじめ、さまざまな言葉や情報があふれかえる時代だからこそ、自分らしく生きるということが、より大切になるのではないかと思います。そのためにも、自分を見失わず、自分が本当に何をしたいのかということを問いかけ、いかに自分と向き合うかということが、ますます大事になってくる。自分と向き合うことの大切さ、それを伝えたいですね。

——エンタテインメントの世界も含め、世界中が大きく変化する今、変わらない部分というものはありますでしょうか。

 根源にあるのは、待っていてくださるみなさんがいる、という意識。その意識はすごく強いです。なぜかというと、やはり僕は舞台で育った人間なので、カーテンコールや終演後の御挨拶などで、見ていただいた方に直接お礼を言える環境で成長してきました。見てくださるみなさんがいるからこそ僕が成立し、こうして舞台に立てているという思い、そして、バラエティでもCMでも映画、ドラマ、舞台、どんな現場でも、みなさんが山崎育三郎に対して抱くイメージからは絶対に外れないという思いを、常に変わらず持ち続けていきます。

——あと1か月で、2021年です。

 2020年は、朝ドラへの出演、直太朗さんとの出会い、日本武道館でのコンサート……自分の大きな夢がかなうようなことがあった一方で、世界中が大変な1年でもありました。エンタテインメントの世界も大きく変わり、新たな表現や楽しみ方も生まれました。おそらくこの新たなスタイルのまま、2021年を迎えると思いますが、常にポジティブに、チャレンジを続け、自分に出来ることを模索し、そしてなにより楽しみながら挑んでいく1年にしていきたいなと思っています。

(本誌・太田サトル)

※週刊朝日12月11日号の記事に加筆しました

撮影・松永卓也(写真部)
撮影・松永卓也(写真部)