今は一人娘と幸せに暮らしている。

 こうした青木さんのケースと違い、親の影響が強すぎて、精神的に苦しんだ上、「無理に親の面倒をみて子どもも共倒れというケースもあります」(中央大学の山田昌弘教授)。

 家族社会学が専門の山田教授によると、「自分(や自分の子ども)の生活を守るために家族をしまわなければならないという人も存在します」。

「家族じまい」し、自分らしい人生を歩みだしたのはライターの寺田和代さん。幼いころに実の父親が自死。養父と実母との間に生まれた弟を含む4人での暮らし。家族の自死はタブー視された時代。感情や記憶を口にすることもできず、飲酒問題を抱えた養父からの暴力も誰にも言えないままだった。父の自死を「なかったこと」と封印し、養父から実娘への虐待を否認し続けた母親は9年前に大腸がんで亡くなった。親戚から余命いくばくもないという連絡を受けても、会いに行くことを選ばなかった。

 一度だけ母親に手紙を書いたこともある。しかし「私がどんなにあなたを誇りに思ってきたか、あなたにはわからなかったのですね」と、的外れな一言だけが返ってきた。

「最後まで母親とはわかり合えませんでした。物別れという結末です」

 寺田さんの中に、親を捨てたという感覚はない。

「もちろん『親を捨てた』結末に至ったのですが、そうしなければ自分が生きられなかったのです。捨てたくて捨てたのではないという長い、長い葛藤があったような気がします。これだけ親子愛や家族愛至上の社会で『親を捨てる』ということは私にとってはほとんど命がけみたいなものです」

 深刻な鬱状態になり、1年ほど、働けないどころか、ほぼ寝たきりだった時期もある。人生の大半を母親との関係に悩まされてきた。母親が亡くなったときは「母娘関係にこれ以上苦しいエピソードが重なることを不安に思わなくていいという安堵と解放感が残りました」。

 親との関係に苦しんだ女性3人のケースをご紹介したが、大事なのは家族という既成概念にとらわれることなく、自分の人生を自分の足で生きることかもしれない。(本誌・大崎百紀)

>>【後編/増える「家族じまい」相談は5倍 「親の骨を拾いたくない」と家族代行に依頼も】へ続く

週刊朝日  2020年12月11日号より抜粋