「正しく衛生管理された、新鮮な食材を使うことが第一。細菌がいちばん繁殖しやすいのは35度前後で、75度以上は安全と言われていますが、高温で加熱すると食材がパサついてしまいます。厚生労働省の加熱食肉製品の規格基準では、『中心部が63度で30分以上加熱もしくは同等の加熱殺菌をした食肉製品』とありますので、それを目安に加熱しましょう」(川上さん)

 肉や魚、卵などに多く含まれるタンパク質は、加熱温度を上げると変性する性質がある。55度以下なら肉汁を保てるが、それ以上の温度になると水分が抜けてパサついてしまうという。

「加熱用の肉や魚などは安全策を取ってゾロ目で覚えやすい値の66度未満を保って調理すればタンパク質を極力壊さずに調理でき、しっとりとおいしく仕上げることができます」(川上さん)

 厚みのある食材を加熱するときは、加熱時間を長めにするか、薄く切って加熱したほうがいいという。

 加熱後はすみやかに食べたほうがいいが、すぐに食べない場合は袋ごと氷水につけて急速冷却し、しっかり冷ましておけば冷凍、冷蔵保存できる。

 川上さんに低温調理器を使って簡単にできる料理を4品教えてもらった。肉料理のイメージが強いが、魚や野菜料理にも活用でき、失敗せずに温泉卵も作れる。

「生で食べられる刺し身用の魚や帆立などを低温調理器で加熱すると、生臭さが消え、ねっとりととろけるような食感が味わえます。火加減が難しい煮魚も、少ない煮汁で焦げ付かせることなく仕上げることができます。野菜はピクルスや浅漬けを短時間で作れますし、果物ならコンポートやフルーツソースが簡単に作れますよ」(川上さん)

 取材を進めた記者は居てもたってもいられなくなって低温調理器を買ってしまった。真っ先に作ったのは憧れのローストビーフ。厚さ約1センチのステーキ肉でも、低温調理なら中身はミディアムレアという絶妙な火入れが簡単にできる。

 肉にフォークで穴を開けて塩コショウをすり込んで下味をつけ、ハーブと一緒に密閉袋に入れる。55度で50分加熱したら肉を袋から取り出し、バターを溶かしたフライパンでさっと表面に焼き色をつけたら完成だ。

 ナイフでカットすると、肉の内側はほんのりロゼ色。スーパーで買った100グラム398円の外国産牛肉とは思えない、柔らかくてジューシーな仕上がりに大満足だった。

 食材や調味料を袋に入れるだけという手軽さに加え、調理中は何もしなくてもよくて、後片付けも楽。しかも失敗なく、おいしくできるなんて最高だ。年末年始の食卓を彩ること間違いなし。この冬、ぜひ挑戦してみてほしい。(ライター・吉川明子)

週刊朝日  2020年12月4日号