「低温調理器は、タイマーで時間を設定し、鍋の中の水を温め、循環させて一定の温度に保つというシンプルな機能。なので実は機能面ではそんなに大差はありません。設定温度まで温度を上げる加熱速度が速い、0.1度単位で温度が設定できるといった性能の差や、スマートフォンと連動して操作できるといった付加価値はありますが、1万円台のものでも十分力を発揮してくれます」(コヤマさん)

 コヤマさんにおすすめの機種を挙げてもらった。いずれも手頃な価格で、日本のメーカーが販売しているので、購入後のフォローも安心だろう。

 とはいえ、「低温調理器を購入し、はじめは物珍しさからローストビーフなどを作っても、結局使わなくなりそう」と思う人がいるかもしれない。しかし、料理研究家でシェフの川上文代さんによると、むしろ料理の幅が広がり、食卓が豊かになると断言する。

「一定の温度での調理が可能な低温調理は、料理が苦手な人でもプロをしのぐ料理ができる、家庭料理の大革命ともいえる調理方法です。食材に均一に、確実に火入れできるので、『焼きすぎた』といった心配もなく、誰でも自信を持っておいしい料理を作れます」

 低温真空調理の料理本を執筆し、主宰する料理教室でもレッスンを行っている川上さんに、低温調理器を使った料理の基礎を教えてもらった。

 まずは低温調理器のほかに、耐熱性のある密閉袋と深さのある鍋を準備する。密閉袋に食材や調味料などを入れて、鍋の湯に沈めるだけだが、袋の中の空気を抜いて真空状態にする必要がある。

「真空にするのは、熱を均一に素材に伝えるため。密閉すると食材の味や香り、栄養素が逃げず、食材に調味料が浸透しやすくなります。真空パック機があれば便利ですが、なくてもお湯に沈めるときに水圧で空気を抜き、しっかり閉じれば大丈夫」(川上さん)

 温度や時間の設定は、食材や料理によって異なるが、同じ温度であれば、密閉袋に入った複数の食材を同時に加熱することができる。一方、低温で加熱するため、細菌を死滅させることができず、食中毒を心配する人もいるという。

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