京都大学病院 精神科神経科教授 村井俊哉医師
京都大学病院 精神科神経科教授 村井俊哉医師
統合失調症データ(週刊朝日2020年11月20日号より)
統合失調症データ(週刊朝日2020年11月20日号より)

 およそ100人に1人がかかり、精神科の病気の中でも頻度が高い「統合失調症」。幻覚や妄想などの症状が強く現れる急性期は、薬物療法に重点をおいた治療になる。急性期を乗り越え、次のステップにつなげることが大切だ。

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 統合失調症は長期にわたって治療に取り組む必要があるが、十分な回復が期待できる。治療の両輪となるのが「薬物療法」と、カウンセリングやリハビリテーションなどの「心理社会的療法」だ。症状や経過に合わせ、両者の比重を変えながら組み合わせていく。

 幻覚や妄想などの激しい陽性症状が現れる「急性期」は、薬物療法に重点をおいた治療がおこなわれる。京都大学病院精神科神経科教授の村井俊哉医師はこう話す。

「患者さんは幻覚も妄想もすべて現実に起きていることだと思い込み、これまでに体験したことのないような恐怖を感じています。幻聴に『死ね』と命じられて、自殺を図ろうとしてしまうことさえあります。幻覚や妄想は、薬で抑えることが可能です。つらく危険な状態から早く脱するために、できるだけ早く治療を始める必要があります」

 主に使われるのは「抗精神病薬」だ。脳の中で情報を伝達している神経伝達物質の一つ、ドパミンの活動を調節することで、幻覚や妄想を改善する。近年は陽性症状だけでなく陰性症状も改善するなど、さまざまなタイプの抗精神病薬が使えるようになった。

 抗精神病薬は効果が高く、幻覚や妄想を抑えるには欠かせない薬だが、からだの震えや筋肉のこわばり、口のもつれ、からだがそわそわして落ち着かないといった「錐体外路症状」と呼ばれる副作用が出ることもある。

 同じ薬でも効き方や副作用の出方は人によってさまざまなので、多くの薬の中から一人ひとりの状態に合った種類と量を細かく調整していく。

「つまり錐体外路症状のような副作用を起こさず、一方で幻覚や妄想といった症状を抑えることができるような、ちょうどよい薬の量を見極めることになります」(村井医師)

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