林:私もそう思います。銀座のママたちがコロナの持続化給付金の申請をしようとして、「銀座のクラブやバーになんで支給しなきゃいけないんだ」みたいな声がSNSで上がったときに、銀座のママの代表みたいな方が、「私たちがどれだけ税金を払ってるか知ってますか? こういうときこそちゃんと支援してほしい」と言ったので、さすがだなと思いましたよ。

和田:日本はSNSの時代になっても表層的な情報しか出てこないんです。「これはいかん」とか「これは正しい」とかって、感情論じゃないですか。SNSが感情の増幅装置になっている。

林:それで人を死に追いやったりするわけですよね。私、ほんとにわからないのが、(SNSの誹謗中傷が理由で自殺したと見られる)木村花さんを悼む一方で、「2ちゃんねる」をつくった男性が、文化人ヅラしてコメンテーターとして出てること。裏社会で生きてきたなら、それを通すべきだと思う。コロナにしても、テレビ局のコメンテーターの選び方って、一体何なんだろうってつくづく感じますよ。

和田:感染症のプロ、免疫学のプロ、精神科のプロとかをゲストに呼んで、多面的な意見を言わせて視聴者に考えさせるのがふつうの国のやり方だと思うんだけど、日本の場合は「コロナはコワい」とか「対策を怠ってはいけない」とかいう話ばかりで、感情とか常識論を言うだけのコメンテーターが並んでるから、よけい前頭葉を老化させている。議論じゃなくて、「当たり前の確認」でしかない。

林:これからジワジワとこのツケが回ってくるでしょうね。

和田:いろんなことがコロナを通じて変わると思うんです。ただ、日本の場合は、世の中が変わってもシステムが変わらないんですよ。医学部一つとっても、高齢者が増えれば増えるほど、さっき言ったように臓器別診療では困るわけです。一人の患者さんがいくつも病気を持っている可能性が高いですからね。ところが、それにナタを振るえるような厚生労働大臣が出てこない。

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、精神科医・臨床心理士。国際医療福祉大学心理学科教授。和田秀樹こころと体のクリニック院長。和田秀樹カウンセリングルーム所長。一橋大学経済学部非常勤講師。川崎幸病院精神科顧問。映画監督としても活躍。近著に『東大医学部』『「コロナうつ」かな?』『感情の整理学』など著書多数。

>>【後編/異論を言う人は嫌われる? 精神科医・和田秀樹がテレビから消えた理由】へ続く

週刊朝日  2020年11月20日号より抜粋