志村さんの出演する舞台に誘われ、見に行ったこともあった。

「けんさんは甘いものが嫌いなので、せんべいとかあられを楽屋に差し入れしたことがありました」

 そんな希代のコメディー王も、奥村さんの前で悩みを口にしたという。

「『ネタ不足だよ』『昔からやっているからワンパターンになっちまう』とか、『バカ殿のコントは、もう年だから白塗りがきついよ』とか言っていることがありました」

 体調が悪そうな日もあった。

「酒量は、途中から控えめになりました。歩くのがちょっと遅かったり、検査入院を何度かしたり。具合が悪い日は、ノンアルコールビールを飲んでましたね」

 最後のメッセージのやり取りは、今年2月10日だった。

「次はいつごろ会おうか、というメッセージでした。そのうち会おうと思っていた……」

 志村さんは3月17日に倦怠(けんたい)感を覚え、19日に発熱と呼吸困難の症状となった。20日に緊急入院。23日に新型コロナの陽性が判明し、29日に亡くなった。

「私が、3月19日にメッセージを送ったときには既読になったんですけれど、25日に『お体は大丈夫ですか』と送ったメッセージは既読がつきませんでした」

 女性誌が4月、志村さんから「オレの子供を産んでくれ」と頼まれたことなどを報じた。実際はどうだったのか。

「それはけんさんが酔っぱらって、軽いジョークの感じの言葉なんですよ。2人きりでかしこまって言われた訳ではありません。私は、アハハと笑って答えました。けんさんの女友達は、私一人だけじゃないので、何人かのうちの一人というだけです」

 奥村さんは三重県出身。高校を卒業して東京の専門学校に入学後、モデルの仕事を始めた。志村さんからは、「来年は俺の舞台に立たせてやる」と約束してもらっていたという。約束は果たされないまま終わったが、女優になる夢を実現しようと奮闘中だ。

 最近では「ミスFLASH2021」のオーディションでファイナリストの15人に残った。

「女優を目指すつもりです。まずはいい作品でセリフのある役につきたい」

 志村さんも、天国で応援しているに違いない。(本誌・上田耕司)

※週刊朝日2020年11月20日号に加筆

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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