山本豊彦(撮影/写真部・高野楓菜)
山本豊彦(撮影/写真部・高野楓菜)

 週1度の締め切り当日。記者たちは慌ただしくしんぶん赤旗日曜版編集部を出入りしていた。ソファでは数人が打ち合わせをしている。

 山本豊彦編集長はそんな中で本欄の取材を受けたのだが、撮影が始まると、

「いつもの顔と違いますよ」

「もっと笑わないと。緊張してるんですか?」

 厳しい時間帯なのに、記者たちが次々と声をかけてくる。そんな冷やかしの声に、「そうか? これでどうだ?」と破顔一笑。つられて編集部中から笑い声が起こる。紙名のまとう、どこかおカタいイメージとは違う職場なのである。

 しかし、その家庭的とも言える編集部は、まばゆいスクープを連発した。今年度の「JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞」の大賞を受賞した一連の「『桜を見る会』疑惑報道」である。

 特筆されるのは、ほかのメディアが問題意識を発揮できなかった中で、これは公的行事の私物化だ、という視点を持てたことだ。賞の選考会では満場一致で大賞に推された。これら一連のスクープが誕生した取材の詳細をまとめたのが本書『「桜を見る会」疑惑 赤旗スクープは、こうして生まれた!』(新日本出版社 1300円・税抜き)だ。

「政界疑惑はこれまでもたくさんありましたが、多くは密室での出来事で、少数の関係者しか知りえない疑惑でした。しかし、桜を見る会は公式行事で、1万8千人が参加しています。大手メディアの記者も取材している、“公の場”だったのです。しかし、私たちは記者クラブにも加盟していないし、誰も桜を見る会には参加していませんから、違う視点で見られたのかもしれません」

 きっかけは、台風災害の取材をしていたデスクが目にした一つのSNS投稿だった。「台風災害は無視して『桜を見る会』には血税大盤振る舞い」などと書かれていた。調べていくと、桜を見る会が与党議員や閣僚の後援会サービスに利用されていることがわかり、本格的な取材が始まった。ネットや公文書などを分析する「オープンソース・インテリジェンス」という新しい調査報道の手法を駆使し、有力情報があると現場に飛んで確認する作業を続けた。

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