妹が鉄棒やブランコから落ちて泣いているときも、セグは家に走って母親を呼んだ。エプロンを引っ張って公園に連れてくるのだが、妹が小さいとき、そんなことが五、六回はあった。
セグはなにか芸を教えて、それができるというレベルの頭ではなかった。愛情が深く、常に飼い主のためを思って行動した。
セグが亡くなった数年後、コッカー・スパニエルを飼ったが、頭のよさは比べるべくもなかった。兎や猫も飼い、わたしが中学生のころは猿(ブタオザル)も飼った。猿は確かに知恵がまわるが、人間を対等に見ているのか、躾ができなかった。どこでも糞をするから年中、オシメをしないといけないし、叱ると歯を剥きだして噛みついてくる。おとなになった猿は某動物園が引き取ってくれた。
よめはんと結婚してから飼ったのは、フクロウ、イシガメ、キボウシインコ、セキセイインコ、オオハナインコ、ヨウム、カエルだろうか。
カエルはイエアメガエル、ベルツノガエル、ニホンアマガエル、ヒキガエルと、多いときは十数匹が家にいた。ヒキガエルの博子ちゃんは体長が十五センチもある大きいカエルで、もちろん懐くはずもないが、仕事部屋をとことこ歩きまわるようすがかわいかった。いつか山歩きをしてヒキガエルを見つけたら、また飼ってもいい。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する
※週刊朝日 2020年11月13日号