「藤井は対局時の昼食メニュー選びで“長考”してしまうと言います。悩んだうえで藤井は昼食メニューを毎回のように変えていますが、これはお店に対する配慮があるのではないかと私は考えています」(杉本八段)

藤井が注目を浴びるのはもちろん昼食メニューだけではない。常に「新記録」と結び付けて報じられる。プロデビュー直後に29連勝して最多連勝記録を塗り替えただけでなく、公式戦最年少勝利、最年少順位戦昇級、六段から八段まで最年少昇段、最年少優勝など数え上げればきりがない。

 しかし、杉本八段は「藤井にとって、記録は二の次だ」と言う。2019年、中原誠十六世名人が持つ年間最高勝率記録をギリギリで逃した日に、師匠は藤井をねぎらうために食事をした。そこで藤井は「記録は狙ってません。意識していないです」と明かしたという。

「普段の藤井を見ていて感じるのは、記録にはあまり関心がない。将棋が強くなること、将棋の真理を追究することを追い求めているように思います」

 純粋に将棋を愛している姿勢を、師匠が特に強く感じたのはお正月の昼に一門で集まって研究会を行ったときのことだ。新年会でもあるので、晩ご飯は鍋を作ってみんなで食べた。

 普段はそれで解散するが、藤井は食後にも兄弟子と将棋について語り合った。仲間たちに求められ、講釈するようにとうとうと考えを述べたという。話は熱を帯びていき、時間はどんどん進み、気が付くと終電直前。心配した親から電話がかかってきてお開きになった。

「こういう姿勢は純粋に将棋を楽しむためであって、次の対局への準備をしているわけでも、話してと頼まれたからでもありません。時間を忘れるほど将棋を語り合うことに集中していたのです。藤井のそうした無心な姿勢が、かえっていい結果に結び付いているのだろうな、と感じた瞬間でした」

 では、やはり若いころから突出した活躍をしてきた棋士たちの横顔はどうなのか。

 ある将棋記者は「共通しているのは凝り性で勝負事が好きという点です」と指摘した。

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