映像での最初の仕事は、渡辺淳一さんの小説が原作の映画「化身」。出世作となった映画「失楽園」も渡辺淳一さんの原作だ。“黒木瞳”の名は、出身地の黒木町に因んで、五木寛之さんが命名したというが、当時から、その佇まいに文学者のイメージを喚起するような物語性を内包していたのだろう。20代の頃から「月刊カドカワ」で詩の連載ページを持ち、30代以降はエッセイや絵本の翻訳を手がけるなど、女優だけでなく、執筆活動も積極的に行った。

 そんな黒木さんが最初に自ら映画を撮ろうと決心したのも、「“人生捨てたものじゃない”という爽やかな余韻を感じてほしい」と切望する原作に出会ってしまったからだ。桂望実さんのベストセラー小説が原作の「嫌な女」で監督デビューを果たしたのは2016年。

「映像化がしたかっただけで、まさか自分が映画を撮るなんて想像だにしていませんでした。ただ、そのときに、人生には突然変異みたいな出来事が起こることがあって、誰にとっても、この先何が起こるかわからないから、人生は楽しいんじゃないか、と思ったんです」

「嫌な女」が公開され、外国人記者クラブで会見をした際、「ハリウッドにもまだまだ女性監督は少ない。女性がリーダーになることがそう多くない世の中、あなたには頑張ってほしい」というたくさんのエールが届いた。

“女性だから”とか、“女性代表として”と気負うのではなく、自分に与えられたチャンスがあるなら挑戦したい。そんな気持ちでいたとき、女性の映画プロデューサーに「これを読んでみてほしい」と託したのが、内館牧子さんの『十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞』だった。

「源氏物語」に登場する桐壺帝(きりつぼてい)の正妃・弘徽殿(こきでん)の女御(にょうご)は、これまでヒステリックな悪女の代名詞とされていた。ところが、内館さんは、彼女を“妥協や忖度を一切しない早すぎたキャリアウーマン”に見立てた。現代からタイムスリップしたネガティブ男子・伊藤雷は、弘徽殿の女御や運命の女性“倫子”と出会い、自分の存在価値を見つめ直し、成長してゆく。

「プロデューサーさんに、『いい題材を探している』と相談されて、ふと、この小説のことが頭に浮かんだのです」

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