やっぱりね! 寂庵絵画塾は三日坊主でしょ。飽きっぽい性格のセトウチさんは熱し易(やす)く冷め易く、の目のようにくるくる変るところは僕も同じだから、結末は最初から予知していたので、ちっとも驚きません。こんな風に僕が言うと、セトウチさんは僕を裏切って、裏でこっそり、「ヨコオさんの想像を裏切っちゃおうよ、さあ、描こう描こう」と描き出すそんなオチャメなところがあるんだけれど、そんなセトウチさんの心理を裏切ったことがバレバレになってしまったので、「やっぱり、止めとこ」と言いそうです。ネ? その通りでしょ?

 でも風邪は治ったけれど、また足の方がなんだか具合が悪いと風の便りで、僕の難聴の耳にもかすかに聴こえているんですけれど、そんな様子は、この手紙の返信で、報告して下さい。昔、僕がなった足の病気によく似ているので心配です。弱り目に祟(たた)り目みたいですが、これで大きい業(カルマ)を解脱されますね。先は目出度(めでた)し目出度し。

 まなほ君のどんな手紙が来るのか楽しみ。先生によろしく。

■瀬尾まなほ「『瀬戸内転んで静養中』瀬尾代筆続けます」

 横尾先生

 前回に続き秘書の瀬尾まなほです。風邪が長引いているわけではなく、一昨日の夜中に瀬戸内が転倒してしまいました。

 目の上に大きなたんこぶ、そして瞼は赤青黒く腫れ、頭の後ろも打ちましたので内出血し大きく腫れています。すぐ電話をくれたらいいのに、瀬戸内は一人、朝に私たちが来るのを待っていたのです。

 足が痛むので、歩く際杖をついたらその杖が滑って転んだ、と。なんのための杖でしょう。医者に診てもらい、骨には異常がありませんが内出血をしているので要様子見の状態です。

「実は隠してるけど悪いこといっぱいしてるのよね。その罰があたったんだ」と瀬戸内。お岩さんのようと自分では言うものの、怖くて鏡の中の自分を直視出来ないようです。しばらくは私たちスタッフが日替わりで泊まり込むことに。もう夜に一人にさせるのは危ないですね。廊下で倒れ、独りで「イタイイタイ」と泣く姿を想像するとかわいそうでなりません。読み書きが腫れた瞼のせいで出来ないので、今回も私が書かせていただきます。本人はこの痛みについて、自分でないと伝わらない、と言っています。早く横尾先生に手紙を書きたいようです。ただもうしんどくて仕事はしたくないと言っています。十分書いた、と。この不調が良くなれば、きっとまたペンを握り、平気で一晩二晩、徹夜をするでしょう。しかし横尾先生の仰(おっしゃ)る通り、今は少し休んでもらいましょう。

次のページ