帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
※写真はイメージです (GettyImages)
※写真はイメージです (GettyImages)

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「エクソソームとがん治療」。

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【転移】ポイント
(1)エクソソームは細胞や臓器をネットワーク化する
(2)エクソソームを阻止してがんの転移を抑える
(3)エクソソームの考え方は西洋医学にとって画期的

「エクソソーム(Exosome)」という単語を耳にしたことがあるでしょうか。エクソソームは細胞から放出される泡のようなものです。直径が1万分の1ミリほどの大きさです。このごく小さな泡の存在が最近、注目されています。

 国立がん研究センター研究所でこの分野の研究をしてきた落谷孝広さん(現在は東京医科大学教授)の著書『「がん」は止められる 指令物質をコントロールする医療革命』(KAWADE夢新書)に詳しいのですが、このエクソソームを制御することによって、がんのやっかいなふるまいである“転移”を制圧することができるというのです。

 エクソソームは「細胞から放たれ、細胞どうし、臓器どうしで会話するメカニズムを担う物質」(同書)だということがわかってきました。つまり、人間の体の中で、細胞や臓器は個別に動いているのではなく、エクソソームを介してお互いに情報を交換して、ネットワーク化されているというのです。

 がんの転移においては、まず転移先の組織に向けて、エクソソームが放出されます。転移先に着地したエクソソームは、そこで“メッセージカード”であるマイクロRNAを発動させ、がん細胞が定着しやすい環境をあらかじめ作ります。そして、後からやってくるがん細胞を誘導してこれを受け入れるというわけです。

 ですからメッセージ役のエクソソームを阻止すれば、がんの転移を抑えることができると考えられています。実際、マウスでエクソソームの分泌を止めると転移しなくなったといいますから、期待できます。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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