30年前にお亡くなりになっているので、私は楽屋でもお会いしたことはないし、生の高座も拝見していない。音源を探してもなかなか見つからない。市販もされてないようだし、ネット上にもない様子。私の師匠の世代は、先代燕路師匠の元に随分とお稽古に通ったらしい。「カチッとした芸風だったな」と師匠。笛の演奏も達者でそちらの稽古をつけてもらったという先輩も多い。ぜひ燕路師匠の噺も聴いてみたいのだけど、テープお持ちの方はいませんかね?

 この燕路師匠、奥様がひょっとすると師匠よりも有名……といったら失礼だが、かの絵本作家のせなけいこさん。『いやだいやだ』『ねないこだれだ』『にんじん』などのロングセラーで知られる大作家だ。なんとこのご夫婦が同じ屋根の下で執筆されていたという。せなさんの作品には『ばけものづかい』『ひとつめのくに』といった落語を元にしたものもあるから、師匠は落語の稽古をしたり、それを耳にしながら奥様が執筆したりの日々だったのだろう。

 我が家の子どもの本棚には『子ども寄席』と『ねないこだれだ』が隣り合わせに置いてある。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。YouTube 「春風亭一之輔チャンネル」ぜひご覧ください! アーカイブもいろいろあります

週刊朝日  2020年11月6日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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