岩井:いずれにしろ政権が宮内庁長官人事まで手を突っ込むのはあってはならないことです。

御厨:そしていま、僕が気になるのは、コロナ禍で国民との絆が薄れた令和皇室のありようです。

岩井:国民の多くが、給付金10万円などで食いつなぐといった大変な思いをし、今後も厳しい情勢が続く未曾有の危機にあって、令和の皇室の存在感が希薄です。何をしているのだろう、と歯がゆい思いです。

■ 皇室漂流の時代が到来しかねない

御厨:僕は、安倍政権下で天皇陛下の退位のあり方を考える有識者会議で座長代理を務めました。識者や各方面の意見を聴き、集約した立場で思うのは、天皇や皇族方が表に出ないと、「やっぱり天皇は、千代田のお城にこもってお祈りさえしていればいい」と騒ぎ始めるひとたちが出てくる。次第に、「千代田の一等地に住んでるの誰?」とひとびとの記憶にさえ残らなくなれば、天皇制の存続そのものが危ぶまれます。

岩井:令和の天皇ご夫妻のこれからは大変です。“皇室漂流”の時代さえ到来しかねない。

御厨:上皇さまから天皇の位を引き継いだとたんに、コロナですからね。ただ、象徴というお務めを、令和流にやってほしい、という上皇さまからの宿題があります。この課題と独自の仕事を見つけるのは大変な話です。

岩井:平成の両陛下は皇太子時代の30年間に積み重ねた活動と人脈の蓄積の上で即位して、即位後の30年間もそのまま走り続けました。一方で、令和の両陛下は、雅子さまの体調もあり、平成ほど積み重ねができなかった。人脈や経験をもとに知恵を自らどんどん出すというわけにはいかないのでは。宮内庁も、皇室に来て間もない幹部ばかりで頭を抱えているのではないか。令和の皇室の発信はこうすべきだ、なんて役人の立場から勝手に振り付けるなんてできないですよね。

御厨:宮内庁の高級官僚も、いまは警察畑か外交畑。プロトコールや治安の経験はあるが、天皇陛下が何をすべきかなど、わかりませんよ。

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