映画「感謝離 ずっと一緒に」は、11月6日から全国のイオンシネマほか全国公開(c)2020「感謝離 ずっと一緒に」製作委員会(c)河崎啓一/双葉社
映画「感謝離 ずっと一緒に」は、11月6日から全国のイオンシネマほか全国公開(c)2020「感謝離 ずっと一緒に」製作委員会(c)河崎啓一/双葉社
中尾ミエ(撮影/加藤夏子)
中尾ミエ(撮影/加藤夏子)

 妻の遺品整理を「感謝離」と名付けた夫が振り返る夫婦の時間を描いた映画「感謝離 ずっと一緒に」。尾藤イサオさんとともに主演した中尾ミエさんは、作中での生き方に感銘を受けつつ、自らの人生観を語った。

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「この間試写を観たんですが、これが、よくできていまして(笑)。自分が出ているのに、まるでひとごとのように、泣きながら観てしまいました。ネガティブな哀しさじゃないんです。観終わった後、とても爽やかな気分になる涙。こんなふうに爽やかな別れがあるんだなって」

 尾藤イサオさんと中尾さんがダブル主演した映画「感謝離」は、62年連れ添った妻の遺品整理を“感謝離”と名付け、愛妻への思いを綴った本の映画化である。昨年5月、朝日新聞に投稿されたエッセーがきっかけで、元銀行員の河崎啓一さんは、90歳にして本を出版した。

「原作の河崎さんからお手紙をいただいたので、今日お返事を出すところだったんです」と音楽を生業にしている人らしい、奥行きのある柔らかい声で中尾さんが言う。

「『人生のいわば“終末期”に奥様への愛情あふれる本を出版されて、こんなに素敵な供養はないと思います。人生、最後の最後まで何が起こるかわかりませんね。私たちもあやかりたいと思いますし、そういう生き方を見習いたいです』といった内容のお返事です。実際、人生の締めくくり方はとてもうらやましいと思いました」

“人生、何が起こるかわからない”。それは、中尾さんが10代の頃から漠然と感じていたことだ。渡辺プロダクションに所属したのがまだ中学生だった1961年。「可愛いベイビー」の大ヒットは翌年だった。

「お仕事をやりながら『自分に何が足りないのかな』とか『もっとこれを勉強しなきゃ』とか模索していたので、最初の10年ぐらいは、歌でもお芝居でも自信は全くなかったです。『これを仕事にできるかな?』という気持ちがちょっと芽生えたのはデビューして10年ぐらいしてからですね」

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