スキマワラシの胴乱には、瓦礫の中から拾い上げた種がぎっしりと詰めこまれていた。

「震災や水害など、日本列島にはつねに破壊の不安があります。この種には、瓦礫の中から次に向かって再生してほしいという願いを込めています」

 子どもの頃の恩田さんは、21世紀になったらどんな問題も解決すると思っていたという。

「でも実際に21世紀を迎えてみると、あれ、意外にしょぼいぞと(笑)。スマホがあるのに、いまだに傘を差しているというのが、なんだかちぐはぐな感じがするんです」

 本作で時間の象徴となるのが、「打ち出の小槌」のマークだ。

「『一寸法師』に出てくるアレです。打ち出の小槌を振ることで時間が伸び縮みするんじゃないかな。時間は決まった方向に進むのではなく、いろんな未来がありうると思っているんです」

(南陀楼綾繁)

恩田 陸(おんだ・りく)/1964年、宮城県生まれ。92年に『六番目の小夜子』でデビュー。2017年、『蜜蜂と遠雷』で直木賞受賞。他の著書に『夜のピクニック』『ユージニア』『中庭の出来事』など。近刊にエッセイ集『日曜日は青い蜥蜴』(筑摩書房)。

週刊朝日  2020年10月30日号