恩田陸 (撮影/山口真由子)
恩田陸 (撮影/山口真由子)

「地方を旅して県庁所在地の町を歩いていると、その土地の記憶をたどるようで面白いです」

 そう話す恩田陸さんの新作『スキマワラシ』(集英社 1800円・税抜き)は、地方の町を舞台にしたファンタジックなミステリー。古道具商を営む兄と、モノに触れることで誰かの記憶を見てしまう弟は、亡くなった両親の謎を追って古い建物をめぐり歩く。彼らはある町で開催されるアートフェスティバルに関わることになる。

「私はこの10年ほど、あいちトリエンナーレなどのアートフェスに足を運んでいます。地方の町はかつての中心部が空洞化して、使われない建物が増えています。これからは、それらを壊して再開発するのではなく、すでにあるモノを騙しだまし使っていくしかないと思う。アートフェスも、そのひとつの試みですね」

 兄弟は、この町の古い消防署に使われているタイルに魅かれる。もともとそれは両親が調べていたホテルで使われていたものだったのだ。

「何かに転用したり、リノベーションすることで、古いモノが蘇ることがありますよね。私は印章を集めるのが好きなんですが、モノには痕跡が残ります。デジタルのデータではそぎ落とされてしまうニュアンスがあって、それがモノに残る記憶になっている」

 恩田さんには地方都市を舞台にした作品が多いが、本作ではこれまでと違う印象を受ける。

「この作品では家族を中心とした共同体ではなく、疑似家族的な関係を描いているからかもしれないですね」

 兄弟が行く先々には、白い服を着た少女が現れては消える。彼らはそれを「スキマワラシ」と名づける。家につくザシキワラシに対して、「人と人との記憶のあいまに棲みつく」存在なのだと。

「スキマワラシには、さまざまなイメージが組み合わさっていますね。最近、あんまり走っている子どもを見ないなあとか(笑)。彼女が掛けている胴乱(どうらん=採集用の容れ物)は、高知の牧野富太郎記念館で見て、きれいだなと思ったものです」

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