安田:僕自身も日々の取材を通じ、同種の空気を感じていました。はじめは1月末。中国で新型コロナが広がってまもなくです。脅威が国内で今ほど取り沙汰されていなかったころです。

 それまでもインバウンド(訪日外国人観光客)の多い観光地で、「中国人お断り」という貼り紙が出されているのを目にすることはたびたびありましたが、中国人の入店を拒否する店が飛躍的なスピードで増えていきました。緊急事態宣言が出され、自粛期間に突入すると、今度は一部の地域で「中国人は出ていけ」「武漢肺炎は許さない」といったスローガンでデモや集会が散発的に起こるようになりました。

 差別も偏見も昔から社会に存在しましたが、コロナによって加速しました。いわば「便乗ヘイト」と呼ぶことのできる側面があったと思います。

鴻上:便乗ヘイトというのは、コロナを自分たちの主義主張の理由にしているということですか?

安田:そうですね。もっと言えば、政治家の言動もこうした空気を後押しする一因となりました。3月10日に開かれた参院財政金融委員会では、麻生太郎財務相が「武漢ウイルス」という名称を連発し、中国政府から抗議を受けました。今日(対談当日)、自民党の総裁選が始まりましたが、菅義偉新首相が自身の目指す社会像として掲げたスローガンは「自助・共助・公助、そして絆」。聞こえのいい言葉ですが、要は「緊急時も国民が自分で何とかしなさい」という突き放した態度の裏返しです。

 鴻上さんは、同調圧力の根底に「世間」という日本特有のメカニズムが関わっている、と指摘しています。僕には、菅さんのこの言葉が家族・隣近所といった世間を象徴しているように感じられたんです。

鴻上:世間にも良い側面はあります。例えば2011年の東日本大震災では暴動は起こらず、社会インフラは総出で回復され、世界中から称賛されました。けれどもコロナ禍では、マスクをしていない、要請を無視して営業を続ける飲食店に総攻撃を仕掛ける──など絆の負の側面が目立つようになっています。一体何のための絆なのか。目的を明確にしない限り、同調圧力が強まるだけに終わる危険性は高いと思います。

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