張賢徳医師/本人提供
張賢徳医師/本人提供

 このコロナ禍で憂うつな気分になっている人も多い。大切な家族が、友人が、仕事仲間が、自身の命を絶たないために、まわりはどう対応したらいいのか――。日本自殺予防学会の理事長で、帝京大学医学部付属溝口病院精神神経科の張賢徳医師に話を聞いた。

 * * *

――「コロナうつ」という言葉が作られるほど、心の問題が深刻化しているように思います。

張医師(以下、張):「コロナうつ」については、感染恐怖はもちろん、長期間にわたる自粛ムードによる疲れや、閉塞(へいそく)感から生じる不安、抑うつ感、現実的な家計の不安など、新型コロナウイルス感染症に関連するうつ状態を広く指すものだと理解しています。

 極端な話かもしれませんが、今、多くの国民が不安を感じています。そう考えると、うつ病など病的なレベルまで達している人は、相当数いるのではないでしょうか。実態が見えてこないのは、そういう人が精神科などを受診していないからです。

 気がかりなのは、みんなが何かしら不安や抑うつ感を抱えているので、「みんなつらいんだから、仕方ないよ」とすませてしまうこと。それによって、うつ病の発見が遅れるリスクがあります。

――不安や抑うつと、うつ病は違いますか?

張:不安や抑うつといった感情は誰でも起こるものです。それが脳の機能障害を起こしてうつ病を発症するまで、タイムラグがあります。

 実際、新型コロナに関連してうつ病になったと思われる患者さんが当院を受診するようになったのは、緊急事態宣言の2カ月後、6月に入ってからです。近隣のメンタルクリニックや知り合いの精神科医も、6月ぐらいからそういう患者さんが増えてきたと話しています。

――7月以降、自殺者が増えています。これをどう見ますか?

張:最初に自殺リスクが高いと考えたのは、自粛ムードで経済的な打撃を受ける業種の方々、具体的には飲食業とか観光業に携わっている方です。実際、不況と自殺とは関連があり、それも少し時間をおいて増えるといわれています。

 今はそれに加えて、若い女性の自殺を心配しています。数では男性のほうが圧倒的に多いのですが、どうも増え方を見ると、女性のほうが大きい。理由はさまざまですが、夫のリモートワークや子どもの休校などで家族が自宅にいる時間が多くなり、女性の負担が増えたというのが一因だと考えられます。何も対策を講じなければ、今後も自殺者の数は増えるのではないかと危惧しています。

――多くの人にとって「死」は怖いものです。それなのに、なぜ自ら死を選ぶのでしょう。

次のページ
芸能人の自殺の影響は