内館:教師や医師、音楽家、漫画家に作家……頭を使うクリエーティブな仕事をしている人のほうがどちらかというと認知症に縁遠いイメージがありましたが、決してそうではないですよね。どんな仕事でも関係ない。

くさか:どの職業でも、いつでも好奇心を持って、変化を柔軟に受け入れられる人は、脳へのストレスみたいなもののかかりかたも違う気がします。価値観が固定していて切り替えられない人は気をつけたほうがいいですね。

内館:だから、「すぐ死ぬんだから放っておいて」というのは、完全に価値観の固定で人生の放棄。100歳まで生きる時代だから、「すぐ死ぬ」と言っても、なかなか死なない(笑)。

くさか:そうですね。すぐ死ねたら、ぽっくりいけたらって言いますけど、けっこう長いですよね(笑)。

内館:「すぐ死ぬんだから」がドラマ化されて(NHK BSプレミアム)、主演は三田佳子さんでした。三田さん、女優という仕事は助けてくれる人が周りにいる仕事、とおっしゃるんです。背中のファスナーが上がらなければすぐ上げてくれるし、ヘアもメイクもやってもらえる。お手伝いさんがいるなら、家事もすごく助けてもらえる。あるとき、これじゃいけないって気づいて、できることは全部自分でやろうって、お買い物も自分で行くようになったそうです。三田さんは78歳ですけど、すごくおきれいで姿勢もよくて。そういったことが見た目や表情にも表れてくる気がするんです。

くさか:そういう気持ちが全部の「張り」に関わってくるんでしょうね。

内館:年をとっても介護を受けるようになっても、それぞれが光る場所ってあると思われますか?

くさか:あるべきだろう、って思います。介護を受ける前と後の世界は完全に分かれていて、ある日ころんだことで、急に介護の世界のひとになったりする。こんなはずじゃなかったのになと思うかもしれませんが、そこには壁や溝はなく、本来地続きのひとつの人生。今いる状態が「自然なこと」と思えれば、楽になると思うんです。

内館:そうか……。今いるその状態が「自然なこと」って、自然に思えたら強い。それは目指すべきことね。

くさか:もし要介護になっても、好きなことを言っていかなきゃ。じゃないと、介護の方たちもわからない。言うということが必要なことですよね。

内館:そのためにも、ぜひ「ケアママ!」と「すぐ死ぬんだから」を読んでいただきたいですね。できれば回し読みせず、お買い求めください!(笑)

(構成/本誌・太田サトル)

週刊朝日  2020年10月16日号より抜粋