新旧経営陣の対立は、いまだに森氏の存在が強いことが影響している。もちろん、森氏については関電内で「面倒見がよく、部下に対する思いやりにもたけている」(社員)と評価する人も多い。一方で、金品受け取り問題だけでなく、東日本大震災後にカットした役員報酬をこっそり補填した問題が表面化し、「長年続いた森体制からの脱却が急務」(幹部)との声が高まっている。当時会長だった森氏が、補填を決めたとされたからだ。

 追い打ちをかけたのが、8月に関電のコンプライアンス委員会(委員長=中村直人弁護士)が役員報酬の補填問題を調査した報告書だ。森氏が補填を主導したと認定し、その対象者に「口止め」していた事実も明らかにした。

 報告書によると、関電は12年3月~19年6月、全役員が経営悪化の責任をとって報酬を最大7割減額。だが15年10月ごろ、森氏と当時社長の八木氏が取締役会に諮らずにカット分の補填(ほてん)を決め、16年7月~19年10月に元役員18人に計2億5900万円を支払っていたという。

 関電は当時、震災後の原発停止で電気料金を2度も値上げし、社員のボーナス全額と基本給の一部を削り、株主には無配としていた。中村委員長は「世の中を裏切ることを平気でしてしまう」と述べ、森氏らを厳しく非難した。

 さらに、役員報酬の補填で窮地に立たされているのが、某元役員だ。6月まで監査役を務め、森氏に近く、秘書室担当常務から副社長に引き上げられた人物だ。

 金品受け取り問題では、18年10月に把握しながら、取締役会などへの報告を怠ったとされる。問題が表沙汰になった後、日本監査役協会の全国会議で企業不祥事防止に関するパネリストとして登壇。「思い切ってやって参りました」と語り、参加者からは「ブラックジョークか」との声も聞かれた。

 その元役員だが、今年6月の責任調査委員会の報告を受け、“恩義”のある森氏らの提訴に向けた議論を主導することになった。同月の株主総会で退任したものの、お役ご免とはいかなかった。

 コンプライアンス委員会が8月にまとめた補填問題の報告書では、秘書室担当常務だったこの元役員も森氏や八木氏とともに補填の方針を決めるべく、稟議(りんぎ)書を決裁している事実が発覚。「善管注意義務違反が認められる」と指摘を受けた。

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