黒川博行・作家 (c)朝日新聞社
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※写真はイメージです (GettyImages)
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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、電話回線の不具合と復旧について。

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 昼、たまごかけご飯を食っているとき、ゴリッと硬いものを噛んだ。はて、なんじゃろか──。舌で硬いものを探すと二ミリほどの半透明の歯だった。右下の奥歯がけっこう大きく欠けている。このあいだは麻雀部屋のステレオが壊れたというのに、今度は歯が壊れた。双方、経年変化だろう。

 近所の歯科医院に電話をした。つながりはしたものの向こうの声が聞こえない。こちらの声も聞こえないのか、プツリと切られた。もう一度電話をしたが、やはり通じない。よめはんのガラケーを借りてかけたらつながったので午後三時の予約をし、二階の仕事部屋にあがった。週刊朝日からとどいているはずのファクス(エッセイのゲラ)がない。パソコンを立ちあげたが、メールもない。いつもなら三、四件は来ているのに。

 よめはんを仕事部屋に呼び、固定電話からガラケーにかけてみた。つながりはするが、やはり声が聞こえない。ここに至って電話が故障しているらしいと気づいた(我が家のパソコンは光通信ではなく、電話回線を使ったADSLで動いている)。

 わたしはよめはんのガラケーでKDDIに電話をして症状を伝えた。担当者は、回線が原因でしょうといい、NTTの番号を教えてくれた。たらいまわしか、と思いつつNTTに電話をすると「担当者におつなぎします。このままお待ちください」というから、そのまま待っていたが、いっこうにつながらない。ただ待っているのは時間の無駄だからガラケーを耳にあてつつ文庫本のゲラの手直しをし、四十分後にようやくつながった。症状と電話番号をいうとすぐに調べてくれて、回線の不具合との回答があり、家の外部回線か内部回線か分からないから修理担当者を派遣する、といった。「いつ来てくれます」「最短で三日後ですね」「それは困る。ぼくはパソコンとファクスがなかったら仕事にならんのです。現に、今日もファクスが来んので困ってますねん」

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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