では、自殺を考えている人はどんなSOSサインを出すのだろうか。新行内さんが説明する。

「身辺整理をしたり、お世話になった人にあいさつ回りをはじめたり、『死ぬ』と口に出している方は危険です。また、死別や失業など失ったものが大きい場合や、災難が重なって追い込まれている時も注意が必要です」

 身近な人がサインを出していたら、周りはどんな関わり方をすればよいか。張医師はこうアドバイスする。

「まずは、『最近、元気ないね、どうしたの?』『眠れている? ご飯は食べているの?』などと声をかけてください。その際に『つらい』『死にたい』と言われても焦らない。『死にたい=今すぐ死ぬ』ではないので、深呼吸をして落ち着きましょう」

 うつ病の人は、自分は誰の役にも立たないといった「疎外感」や、人の迷惑になっているという「お荷物感」を抱きやすいことがわかっている。

「なぜ、そのような気持ちになるのか、聴いてあげてください。反論したり、アドバイスをしたりするのは、控えましょう。大事なのは、自分たちだけで抱え込まないこと。心配だったらすぐに病院や精神保健福祉センター、法テラスなど専門機関につないでください」

 こうした対応を「TALKの原則」という。

 うつ病の可能性がある人の半数は、治療を受けていないというデータもある。この半数をいかに医療機関に結びつけるか。それが周りの人ができる対策だという。

 自殺問題を取材するジャーナリストの渋井哲也さんはうつ病が治りかけるときこそ、注意が必要と呼びかける。

「自殺のリスクが高いのは、病気が重症化しているときよりもむしろ、気力や体力が戻ってきた回復期です。体力や気力、意欲が高まって、自殺への行動につながりやすいといわれています」

 日本は欧米諸国に比べ、自殺予防が進んでいないといわれる。渋井さんは「そもそも対策が十分ではない」と指摘する。

「例えば電話やSNSの相談も、24時間対応のところはほとんどない。予算を付けてスタッフを充実させることが喫緊の課題。対策の『質』を高めなければ、実際の自殺予防にはつながりません」

◇相談窓口
■日本いのちの電話連盟
・フリーダイヤル0120・783・556
(16時~21時、毎月10日は8時~翌日8時)

■よりそいホットライン
・フリーダイヤル0120・279・338
・IP電話やLINE Outからは050・3655・0279
(24時間)

■こころのほっとチャット
・LINE、Twitter、Facebook @kokorohotchat
(12時~16時、17時~21時、最終土曜日から日曜日は21時~6時、7時~12時)

(本誌・山内リカ、西岡千史)

週刊朝日  2020年10月16日号