ジャーナリストの田原総一朗氏(c)朝日新聞社
ジャーナリストの田原総一朗氏(c)朝日新聞社
イラスト/ウノ・カマキリ
イラスト/ウノ・カマキリ

 泥仕合の様相を呈した米大統領選の討論会。ジャーナリストの田原総一朗氏は、共和党のトランプ大統領も民主党のバイデン氏もビジョンが示せていないと指摘しつつ、日本の政治と比べたら「うらやましい」という。

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 9月29日夜、共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領によるテレビ討論会が開かれた。私は翌朝のNHKの番組で部分的に見たのだが、激しい言葉が飛び交う非難合戦のようであった。

 10月1日、朝日新聞は「非難合戦 大荒れの討論会」という大きな見出しを掲げて、「1時間半にわたってののしりあいが続く泥仕合となった。選挙結果をめぐる混乱のおそれにも拍車がかかり、米メディアからは『敗北者は米国民』と指摘が上がった」と書いている。

 毎日新聞は「醜態 決め手欠くトランプ氏 形式無視し中傷 バイデン氏 圧倒され窮する」という見出しで、カリフォルニア大サンディエゴ校教授のダニエル・ハリン氏の「米大統領選史上最も無秩序な討論会だった」というコメント、そして慶応大教授の中山俊宏氏の「とにかくひどい質のディベートで、米国がディベート一つまともにできないほど分断されてしまっていることを世界にさらした」というコメントを紹介した。

 読売新聞は「初対決90分 泥仕合 トランプ氏 再三の発言妨害バイデン氏 失言回避に終始」として、「約1時間半の討論は中傷合戦の様相を呈し、政策論争は深まらなかった」と書いた。

 産経新聞は「主張」(他誌では社説)で、「討論会では、2人とも個人攻撃を交えつつ持論を展開するばかりで、議論が深まったとはいえない。……司会者が『米国民は中身のある議論を聞きたいのだ』と言ったのもうなずける」とした。

 朝日・毎日は安倍首相批判の姿勢、対して読売・産経は安倍首相を是認する姿勢が強く、大きな差異があったのだが、今回の討論会については、双方とも差異がなく、いずれも批判的であった。

 だが、討論が非難合戦、泥仕合になったのは、それほど米国の明日のビジョンを示すのが難しい、ということではないか。

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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米国の政治にはそれなりの緊張感がある。日本は?